第8話

『うむ。全然強くはないが、訓練次第で強くなる事ができるだろう。吾輩はいつでもここにいるから、また訓練したくなったらいつでも来るがいい。特に、ステータス更新をした後なんかは動きがまるで違ってくる。日々精進あるのみだ、勇者よ』


チュートリアルでの戦闘訓練は熾烈な戦いだった。これってチュートリアルだよね?って思うくらいに団長の体力が減らないし、死なないとは言え団長の攻撃が強すぎて、何度も瀕死状態になってしまった

これが通常のものなのか、それとも[俺]だからなのかは分からないが、とにかく時間が掛かったと言うことだけ言っておく


『では旅立つがよい勇者よ。支度金として1000WP(ワールドポイント)を受け取るがよい。まずは通りにある冒険者ギルドにでも行くのが良かろう。そこで経験もお金も貯まるじゃろうて。では勇者よ、この世界を救うのじゃ!』




……………多分、このゲームの開発者のセンスはかなり昔で止まってるんだろう。今時の王様としてはかなりナンセンスだ。無理矢理感が半端ない

とは言えゲームがようやく動きだした。一応は目的があるとは言え、基本的にはどこに行ってもいいオープンワールドタイプのゲームだ。俺はどんなゲームでも、まずは石橋を叩いて渡る派なので、とりあえず街の近くの弱いモンスターを求めて街を出る


装備は初期装備の木の剣に、布の服シリーズ

木の剣の攻撃力は+5で、布の服シリーズは頭から順番に+1で合計+5

そして肝心の自身のステータスだが、あの時のテストでの数値がそのまま反映されているのか、総合的な数値として[攻撃力][防御力][器用さ][知力][素早さ][判断力][反射神経][動体視力]等が見て取れた


ゲームでよく見る項目の外に、ゲームでよく見かけない……というよりは見たことのない項目もいくつかある事に違和感が半端ない


それでも早速街を出て近くの森に入ると、目の前にはファンタジーモンスターの定番であるゴブリンが出てきた

俺はとりあえず正面から挑み剣を叩き込む

すると、そのゴブリンは俺の剣をスルリと避けて、反撃の棍棒でぶっ叩いてきた

……え?


いきなり半分に減るゲーム内での俺の体力

焦る俺に追撃を仕掛けるゴブリン

とはいえ今までいくつものゲームをクリアしてきた俺は回避ボタンで、敵のゴブリンの棍棒を避ける

……しかしゲーム内での俺の回避はあまりにも拙く、通常のゲームであれば完全に回避出来てるであろうタイミングで、俺は回避失敗してゴブリンに再び棍棒でぶっ叩かれた


嘘だろ?と思ったが、ギリギリの所で幸運にも残る体力に希望を見出す

見れば攻撃を受ける事でも上昇する赤いゲージがMAXになっていた

俺はこれだ、と思いゴブリンに近づいて必殺技のボタンを押してゴブリンに叩き込む


シュイン、っと一瞬だけ世界が止まったと思ったら、ゴブリンの胴体目掛けて横薙ぎに剣を振るう[俺]………しかし

少しだけ剣がゴブリンに触れたと思ったら、何故か剣を手放す[俺]の姿

あれ?………

もしかすると、もしかしなくてもあれは、あの時の俺の動き?

ゲームの中では、最後のテストで繰り出した剣での攻撃を、見事に失敗したときの俺の動きが、完全に再現されていた


もちろんゴブリンにダメージなんてものは入っていない

変わりにゴブリンから棍棒と言う素敵なプレゼントをもらってしまった[俺]

途端に画面に出てくるゲームオーバーの文字

俺は最弱モンスターの代表格であるゴブリンに、ダメージを与える事が出来ないまま負けてしまったのだ……………


…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………く……………クソゲーだーーーーーーーー!!!!!!

「ああああぁぁぁぁーーー!」

「うるさい伸之!近所迷惑でしょ⁉」

俺は、今までに味わったことのない最大の屈辱を受け、千花姉が部屋に入ってきて俺を蹴り飛ばして意識を奪うまで叫び続けていた

こんなゲーム……クソゲーで…ムリゲーだろ……

俺は意識を刈り取ってくれた千花姉に感謝しながらそのまま眠りについた

きっと今までの事は幻だと信じて………




「夢じゃなかったのか………」

昨日、意識を奪われてそのまま眠った俺は、朝からさっそく昨晩のゲームをプレイし直した

そして再びゴブリンに挑む俺に待っていたのは、ゴブリン達からのリンチだった


くそぅ、王様からの支度金で防具を買ったのに全然ダメじゃないか……

いや、原因は分かりきっている。ただそれを認めたくないだけなんだ

防具を買った事でゴブリンの攻撃を5分の1にまで抑えれたのに、それでも負けた理由

それは単に攻撃が相手に通じなかったからだ

いや、完全に通じなかったわけでは無かったけど、明らかに序盤の最弱モンスターの強さじゃなかった


パワータイプに補正を掛けた筈なのにどうして?とはステータス画面を見れば簡単に理解出来た

「あ……俺、剣での攻撃よりも素手の攻撃の方が高いや…」

……………剣と魔法のファンタジーとはこれいかに?


………………俺はその後、無心になってゴブリンを倒し続けた。ギルドに登録して、ゴブリン討伐のクエストを散々繰り返してお金(WP)を稼いだ

幸いにして俺のパンチはゴブリンには有効で、5発も当てれば高確率で倒す事が出来た

更に相手の棍棒による反撃も、くる瞬間に小回避のボタンを入力すれば、必要最低限で棍棒による攻撃を躱し、ゴブリンにパンチを当て続ける事が出来た

小回避の方が、通常の回避より避けやすいって一体………


そして時刻は既に夕暮れ、ひたすらにクエストを繰り返しゲットしたWPを使い、武器屋で一番の剣を買う

性能は攻撃力+30

それを早速装備して再度ゴブリンに向かう俺、「おおおぉぉぉ!」

実際ゲームでは声なんて出してないが、現実の俺が声を出す


長かった。結局丸一日掛かってしまった

何故ゴブリン一匹倒す為だけに貴重な休日の半分を奪われなければいけないんだ⁉

その想いの丈を全てのせ、ゲームの中の[俺]が、渾身の力でゴブリンを切り伏せる

そして反撃の棍棒をまともに食らい吹き飛ばされる[俺]…………


……分かってたんだ。攻撃力+30の剣を装備したとしても、素手の攻撃力と変わらなかったステータスの事を…

なんなら剣を装備することによって、器用さが下がりまともに相手に当たらなくなる事実を……

しかも攻撃モーションも遅ければ、回避行動に移るまでのラグすらある


俺はその場で無駄な抵抗をやめてゴブリンの暴力を素直に食らう

そして訪れるゲームオーバーの画面

俺はそのままそっとゲームを終了した


……………一応セーブはしてあるんだ。あの剣も無駄では無いはずさ……

名誉の為に言わせてもらう……泣いてなんかない……ホントに……








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