第28話

「オラオラ避けてばかりじゃ勝てないぜ?」

俺は今現在ヤンキー男の投げるボールを大回避で避け続けている

「どうした?攻撃してこねぇのか?あぁ⁉」


「する暇がねぇんだよ!」

ヤンキー男が投げつけてくるボールはかなりの速度で飛来する為、小回避では反応速度が間に合わない。故に大回避を事前に行うしかないのだが……

幸いにして投げる動作のお陰で予測で前もって回避さえ行えば躱すことは出来ている

だけどそのせいでヤンキー男に近付く事が出来ない為、未だ遠距離攻撃方法を持たない俺にとっては一方的な展開と相成っている


「てかずりぃぞ!なんでそんなにポンポン投げつけてくるんだよ!それ魔法か?」

「おうとも!俺は今まで野球しかしてこなかったからな。少し無理言ったら特別に許可してくれたぜ。おかげで俺みたいな人の為に測定方法も改善したって話しだ」


そういえば前回のステータス更新の時に得意なスポーツでの測定も出来るとか言ってたな……俺には空手があったから気にも止めてなかったが………

まさかそれがここまでの戦闘力を誇るとは……


「……っち!だがそんなに何度も投げていればいずれ魔力も尽きるだろ」

このイベントではアイテムの持ち込みは許可されていない

もし回復薬を作ったりするのであれば、現地でクラフトする必要がある

もし仮にヤンキー男にクラフト術があったとしても、イベント開始からの戦闘開始までのあの短時間でまさか素材を採取して魔力回復薬をクラフトしているとは考えにくい


「……その前に倒す!」

どうやら読みが当たったようだ

しかし現状ヤンキー男の魔力量も分からないし、俺の大回避によるスタミナ減少の具合も自然回復の分を地味に上回っているために、あとしばらくもすれば大回避も出来なくなってしまう


「しかしお前はすげぇな!ここまで俺の攻撃を避け続けた奴は初めてだ。……肩をぶっ壊して一日に10球程度しか投げられなくなった俺にとっては、このゲームはやっぱり最高だ!まだまだ投げたりねぇが魔力も少ねぇしこいつでトドメだ!」


今までテレビで何度か見たことのあるピッチャーが投げる時の動作で投げ続けていたヤンキー男の雰囲気が変わる

そして赤いエフェクトが全身を包み、足を大きく高く上げる

画面越しでも分かるその綺麗なフォーム

そして何よりヤンキー男の見事とも言える体幹バランスが俺に次の攻撃が危険だと言うことを知らせてくれていた


「食らえ![火の玉ストレート]」

必殺技なのであろうその技によりヤンキー男の右手で光っていたそれが一瞬にして俺の体にぶち当たる

激しく燃えながら伸びる一本の線はそれこそレーザーのようにも思えるほど

瞬間吹き飛ぶ俺。何も把握出来ないままに残り1割を切るギリギリの体力


…………だけど…「残ったぜ!」

危険だと判断した時から回避は諦めてガードした事が功を奏したようだ

ギリギリだけどまだ体力は残っているし、見ればヤンキー男の必殺技の硬直がまだ解けていない

俺は全力でダッシュしヤンキー男へと肉薄する

「⁉くそ!仕留めれなかったか?」

驚くヤンキー男の声を尻目に俺も貯まったゲージを使い必殺技を放つ

「[正拳突き]!」

残りの距離を一瞬で埋めた俺は、ヤンキー男のボディーへと深々と拳を埋め込む


少しだけ光るだけで派手なエフェクトも出ずにヤンキー男が吹き飛ぶ事もない攻撃はしかし……

「な⁉一撃で……?」

ヤンキー男の体力を確実に削り取ったようだった


〘プレイヤーバトルに勝利しました。メダルを1枚獲得しました。現在メダル4枚〙

「……ちきしょー。お前みたいな奴が居るとは知らなかったぜ。俺も強いと思っていたがまだまだだな。またやろうぜ」

「……俺も意外な戦闘を経験できて良かった」

言いながらスーッと消えていくヤンキー男

なるほど、こうやって消えていくのかと確認した所でふと気付く


「やばい、回復薬を作らなければ」

今の体力は残り1割を切ってギリギリの状態

先程のヤンキー男のような奇襲がもしも成功したのならば、俺はわけも分からずやられてしまう事だろう


とは言えここは森の中。薬の素材となるアイテムがたくさん有るはずだ

俺はプレイヤー達に見つからないように周囲を確認しながら素材集めを開始した













CBWでの初めてのイベントに参加した私、山森雪奈は自身の実力が如何ほどのものかを測るためにこのゲームを始めた

小学3年生頃から始めた空手が今の私の特技であり、元々は姉に対する反抗的な意味合いが強かったけれども、今となってはその空手のお陰で私という人間が形成されている事が良かったと思うし、同時にノブ兄と言う存在を知れて良かったとも思える


普段連絡もしない姉から久しぶりに連絡が入ったと思ったら、どうやら姉は私の通っている道場へと通う事が決まったとの報告をしたかったらしい

そこに私が何年も通っていた事すら知らなかったくせに今更何をする気なのかと問えば、ノブ兄の存在を口にしたことで私はドキリと胸の鼓動が早くなり、続く言葉で更に怒りが込み上げて来てしまう

(ノブ君良い子だよね。私の為に“本気”で組手してくれたよ。ゲームの約束もしたし私、これから更に強くなれそうよ)


ノブ兄が姉相手に“本気”?ゲーム?

どれもこれもが私の怒りに火をつける

姉はいつもそうだ。小さい頃から全てにおいて姉が一番だった

5つ歳が離れている事も大きなハンデの1つかも知れない

だけれど、全ての物事において私は同じ年の頃の姉に負けていた

学力も身長も魅力だって負けた

あの姉の自由な感じが私は許せない

何の悪気も無しに姉は私の全てを奪っていく

両親の期待すらも姉は奪っていった

家を出て、姉が一人暮らしを始めてからも両親の心配と期待は姉一色だ


そんな姉が中学生の時に始めたのがテコンドーという格闘技。私は半ば反射的に姉に対抗するために空手を習い始めた

全てにおいて上をいかれたとしても、姉と同じ時期に格闘技を習ったのならば、姉と同じ年の頃には私の方が上だと思ったから


両親には同じテコンドーにしないかと何度も懇願されたけど、私はそれだけは頑なに反対した

あまりわがままも言わない私だったからか、両親もしぶしぶと言った感じで納得してくれた

結果私は少し離れた所にある道場へと通う事になった


そしてそこで出会ったのが私の2つ上のノブ兄だった


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