第3話
熊田さん……いや、熊田くんとそのまま少しおしゃべりしていると、地下に続く扉が開き、中からおそらく案内の人がやって来た
「長らくおまたせしました。お一人様ずつ中にお進み頂き、入口右手にある番号札をお取り下さい。番号札をお取りになりましたらそのまま更にお進み頂き、目の前に出てくる中央会議室にてお座りになってお待ち下さい。皆様が中に入り次第、講習会の方を始めさせて頂きたいと思います」
はっきりとした聞き取りやすい声で大きな声を出すのは、身長はおそらく160センチ程で、引き締まった体ながらも、体幹がかなりしっかりしていると思しき女性
出るところは出ていて、非常に女性らしい見立てをしているけど、彼女はおそらく格闘技かなにかを習っているのだろう
身近に格闘家の方が二人もいるので、その人を見ればだいたいの強さが分かったりする。俺の数少ない特技のうちの一つだ
顔付きも、俺のセンスが世間一般とかけ離れていないのであればかなりの美少女と言って差し支え無いように見える
現に前に並んでいた人達は、彼女の横を通り過ぎる際に皆顔を赤くしている
つまりは、今この場にいる並んでいた人達は皆男達ばかりだったりする
「……ふつくしい……」
熊田くんが何か呟いた気がするが気の所為だろう
中に入って入口付近にあった機械から番号札を受け取る。そして言われた通りにそのまま進んで行くと、[中央会議室]と書かれた部屋が有り、そこの扉は片方が開いた状態で、並ぶときにもあったCBW講習会の看板と、案内役の男性が皆を中へと導いていた
この人も格闘技経験者なのかなー?なんて思いながら中に入ってその時を待った
すると五分もしない内に入ってきた扉が閉められた
そして正面に見える教壇のような所に一人の男性が入ってきた
「諸君、本日はこのような場所に足を運んで頂き誠に感謝する」
威厳のある声と口調は、その場の空気を瞬時に支配し、皆が目の前の男性の声に耳を傾ける
「今日という日は諸君らにとって大いなる一日となる。まさに記念すべき日となるだろう。ここだけでは無く、今、日本中の各地で今現在講習会が開かれている。諸君らは何故ゲームをするのに講習会が必要か?と、疑問を持つものも少なくないだろう。だが我々が新しく開発したゲームを皆に理解してもらう為には、まずはこういった場を設け、皆にきちんと説明しなければ我々の作ったゲームは理解に苦しむと判断した。そこで、今回皆にはわざわざ足を運んで貰ったと言うわけだ」
聞いている限りでは向こうもかなり本気だな。売れるかどうかも分からない新規参入のゲームで、まずは講習会を開くとかかなりブッ飛んでいる
とは言え、この講習会に参加しなければゲームを買ってもプレイすることが出来ないとなれば、かなり強気な企業であることが伺える
じゃなきゃ休みの日にわざわざにこんな場所には来ねぇよ。とは会場にいる人達大半の思考だろうか
その後も男性はつらつらと説明していく。少し長かったが説明をまとめると
①[チェンジボディーワールド]通称CBWでは、特別なアカウントを作ってもらい、ゲームプレイ時にはその時に作ったアカウントでプレイキャラクターを操作すること
②アカウントは一つ以上持つことは出来ず、又、アカウントの売買は発覚次第消去され、そのアカウントを売買した双方は、以降CBWを永久追放とする
③プレイキャラクターにレベルシステムは存在せず、又ステータス等もゲーム内で成長する事は無い
④ステータス更新は最新の更新日から一週間以上経たないと更新出来ないものとする
⑤全く新しいゲームとなるので細かい調整は随時更新されていくが、あくまでこれはゲームなので、皆様大いに楽しみましょう
ざっくりとまとめるとこのような内容だった。不審に思う点はいくつかあるが、休憩時間を挟んで次はプレイキャラクターのアカウントを作っていくとの事らしかった
「ノブくん、なんだかワクワクしてきたね」
「あぁ、なんだか少し変な気分だよ」
話しが終わった後の会場は、少し異様な空気に包まれている
新たなゲームの可能性に興奮する者や、なんだか面倒なゲームに手を出してしまったかなー、なんて顔をする人達もいる
ちなみに俺とアキくんはもちろん前者に当たる
なんだかんだで仲良くなって既にお互い下の名前で呼び合っている
熊田明人(あきと)だからアキくん。話して見ればなんてことはない、同い年と言う事もあり、共通の話題も尽きない為に一気に仲良くなれた
そのスジの方と勘違いしてごめんよアキくん
「それではいよいよプレイキャラクターのアカウント作りを始めます。ではAから始まる番号札をお持ちの方は私に着いをてきて下さい」
「同じくBから始まる番号札をお持ちの方は僕の後に着いて来て下さい」
「俺は……Aだな」
「僕はBだ。ここで一旦お別れだね」
このビルに入る時に案内していた男女の二人がそのままAグループとBグループに別れて講習会に来た人達を別室へと案内していく
俺の番号札には[A-20]の文字。同じAから始まる番号札を持っていると思しき人達の流れにそのまま着いて行くと、なにやらいろんな器具、機械がたくさん並ぶ大きな部屋へと案内され、その一つ一つの器具に何やらタブレットを持った人達が一人一人就いていた
「では右側の機械から進めていきますので、先ずはAの1番の方からどうぞ」
最初にあった器具は、俺にとっては見慣れた物だが、ここにいる大半の人達にとっては触れることも初めてと言う者の方が多いんじゃないだろうか?
なにやら大層な機械に固定された、所謂ミット
空手やボクシングなんかをしたことがある人ならばまず触れた事があるだろうそれが、ドドンと大きな機械の一部となって俺たちの目の前にある
「では今からこれを殴って頂いて、パンチ力を測定します」
案内の女性はにこやかな笑みを浮かべながら、俺たちに向けてそう言った
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