第7話 ヘルちゃんと落とし物
お兄様が暴れたので瓦礫の山と化したお城。
積み木で作ったお城がバラバラにされたかのよう。
見事なまでにバラバラですわ。
壊した張本人はさもいいことをしたと言わばんばかりの満足した顔で去っていったのでニーズヘッグともども、暫くの間、放心状態になりましてよ。
元々、わたしの持っている魔力は膨大ですわ。
そこに
想像力の方が足を引っ張るので思った通りのお城が出来なかったのですけど。
アグネスだけではなく、モニカやグロリアからも話を聞いて、もっとお城への想像力を養わないといけませんわね。
決意も新たに白亜のお姫様の住むお城を夢見ていたわたしがまさか、落とし物に悩まされることになろうとはこの時、思ってもいませんでしたの。
まず、一つ目の落とし物が現れましたの。
それもお空から、落ちてきたと言うので只事ではないですわ。
落ちた場所が偶然にも藁山の上だったので大怪我を免れた可能性が高い。
さも専門家のような判断を下したのはメニヤですけれど、彼女は医学の知識を持っている訳ではありません。
ただ、手先が器用なだけですもの。
わたしの乳母をしているスカージやメニヤのように別のことが出来る方が珍しいのですわ。
「姫様。ありゃ、どうやら
「
「ええ。全く、何を喋っているんだか、チンプンカンプンですよ」
ぼんやりと空を見上げたまま、動かない黒髪の少年を見やりながら、スカージが降参したと言わんばかりに両手を上げてますわ。
言葉が分からないとは厄介ですわね。
ここは人間の国で色々な言語を知っているだろうモーリスとマーカスの知恵を借りるしかないかしら?
ただ、気になる点がありますの。
ニブルヘイムには外敵が侵入できないように大魔法
門を通りたければ、美徳を一つ捨てなくてはいけません。
節制・純潔・寛容・忍耐・勤勉・人徳・謙虚。
これらを全て捨て去り、ここにまで来られた者は自らを守る鎧を脱ぎ去ったとも同然ですわ。
串刺しにして、軒先に吊るすのも干乾びるまで死刑台にぶら下げて置くのも自由ですわね。
でも、あの落とし物はそれを無視して、落ちてきたということですわ。
どういうことですの?
ええ?
わたしが喋ると舌足らずなのにどうして、こんなにもはっきりとした意識を持つのか、不思議ですのね?
それには理由がありますの。
あれはちょっと前……
ドローレスのアイデアで王国の市場で人気があったあるお菓子が再現されたのです。
砂糖を煮詰め溶かしてから、冷やすと出来上がるキャンディでしたの。
果汁を混ぜて、色々な種類を作れるのも特徴なのですけど、透明感があってまるで宝石のようにきれいなんですの。
ただ、丸くて大きいので喉に詰まると危ないということで食べないようにと注意されていたのについ、誘惑に負けて、口に入れてしまったのですわ。
どうなったのかは何となく、想像がつくのではなくて?
まさか、冥界とあだ名される場所で時の涙を見そうになるとは思いませんでしてよ。
その時、思い出してしまったのですわ。
仮面舞踏会や戦場の光景はまるでロマンス物の舞台演劇を見ているようで……これはかつて、わたしが経験した記憶を見ているのだと確信したのですわ!
ただ、記憶ははっきりとはしてませんの。
わたしに向けられる温かい眼差しの持ち主は誰なのかしら?
ただ、記憶はそんなあやふやなのに知識だけはなぜか、身に付いているのが不思議ですわね。
「分かりましゅ?」
「りゃん~りゃん~」
頭の上に乗っているニーズヘッグに聞くだけ、無駄でしたわ~。
わたしの
何と、異世界の言語も解読が進んでいて、意思疎通が出来る程度に会話が出来ると言うことが分かりましたの。
何でも、チキュー語というものらしいのですわ。
複雑なことにチキュー語にも種類があるのだとか。
アスガルド語という共通語だけでなく様々な言語があるのと同じということかしら?
彼との年齢が近いと思われ、話術に長けたアグネスが話の合う可能性が高いと思われましたの。
彼女が主にあの少年と接触したのですけど、これもうまくいきましてよ。
色々なことが分かりましたわ。
まず、彼はコーコーセーという職業であることが分かりましたの。
それが何を意味するのかは分かりませんけど。
「んんん? 何でしゅってぇ?」
「ですから、シン・ヒイロです」
「しんひーろー?」
異世界から落ちてきた黒髪の子はしんひーろーという名前みたい。
新ヒーロー? 真ヒーロー?
変わったお名前ですのね……。
「あちらの世界では
「ひいろしん? 不思議な名前でしゅわね」
「どうやら、彼のいた世界では名の後ろに家名を名乗る地方もあれば、家名の後に名を名乗る地方もあったようです」
「しょうでしゅの」
そこに拘る意味が分かりませんわ。
このニブルヘイムで家名を名乗る必要はなくてよ。
わたしはただのリリアナであり、リリスであり、ヘル。
それ以上でもそれ以下でもありませんもの。
「ではシンでいいんでしゅのね? 他に分かったことはありましゅの?」
「そうですね。シンの世界には……」
戦争はあるものの彼がいた国は比較的、平和だったということが分かっただけではなく、わたし達を驚かせたことが一つ、ありますの。
このように世界を超える現象を割合、簡単に受け入れる素地があったということかしら?
どうやら、異世界転生や異世界転移といった不思議な現象が一大ムーブメントとして、存在していたのが大きいようですわね。
ただ、それよりも気になることがありましてよ。
シンについて、語っている時のアグネスがとても楽しそうだったのはなぜかしら?
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