第19話 勇者選考会3
四人目のスタルカドは巨人族でしてよ。
確かに大柄どころではない体格の持ち主ですわね。
腕も四本あるようですけど、そこは大した問題ではないかしら?
大事なのは心ですわ。
「〇◇×!」
んんん?
「〇□! ▽▲◎◆●!」
まさか、共通語も喋れませんの!?
えぇ? それ以前の問題?
シンがお手上げとでも言わんばかりに両手を上げてますわ。
言葉自体が駄目ということですのね。
伝わらないことに腹が立ったのか、暴れ始めましたわ。
どうしたら、いいのかしら?
『不合格』ですわ!
「凍りなさい」
ドローレスとシンが少々、呆れた表情になってますけど、これは仕様がないでしょう?
いくらニブルヘイムの時間が緩やかに流れていても時間は無限ではありませんもの。
強制退去ですわ。
氷の彫像になって、静かになったスタルカドは速やかに撤収となりましてよ。
次ですわ!
次の候補者は呪いの戦士であるビャルキですわね。
見た目は意外なほどに普通ですわ。
栗色のおかっぱ頭に鳶色の瞳は良くも悪くも目立ちませんわ。
ただ、特別に整ってはいないものの人好きがする人を安心させるような顔立ちですから、悪くはないと思いますの。
目が泳いでいるので挙動不審に見えるのが、マイナスポイントかしら?
ここまでの候補は皆、直剣や曲刀といった剣系の武具を得物にしてましたけど、ビャルキは両手持ちの大型の鎚を手にしてますの。
大型の鎚と言いますと
あの武具は見た目も神々しくて、きれいな金色に輝く、神器ですけど、ビャルキの鎚はその対極といった感じに見えますわね。
似ているのは土木工事に使う杭打ちの大きなハンマーですわ。
多分、人並外れた膂力を生かしたパワーファイターということなのでしょう。
「お、お、お、おれはびゃるきなんだな」
自己紹介は片言とはいえ、共通語ですわ。
恐らくは内気な方なのでしょう。
もしかしたら、片言ではなく、単に自己紹介をするのが恥ずかしいからではないかしら?
目が泳いでいたのもそのせいですわね。
「特技はありますかね?」
「おう。力には自信あるっすよ」
んんん?
シンの質問には自信に満ちた生き生きとした表情で答えてますわね。
先程までのおどおどしていたのは何かしら?
「苦手とすることはありません?」
「に、に、にがてなんて、ないんだな」
ドローレスの言葉で再び、固まりましたわね。
これは……分かりましたわ。
『不合格』ですわ。
わたしと二人きりで行動することになる勇者が女性恐怖症ではお話になりませんもの。
六人目の候補は
今度、ヘイムダルに会ったら、あのきれいな金の髪をひたすら、編み込んであげようかしら?
本当に真面に選考しましたの?
『鷹の目』は世界を見通す稀有な力ではなくて?
頭の中に再び、疑問符が浮かんでは消えますわ!
それくらいにアスムンドの装束が特殊ですわね。
熊の毛皮で作られた上着は頭から、すっぽりと彼の体を包み込んでますわ。
大柄な体つきなのもあって、後ろから見たら、熊と勘違いされそうですわね。
「姫様の御前です。その上着を脱ぎなさい」
ドローレスの凛とした声は良く通るので背筋が伸びる思いがしますわ。
物言わぬまでもどこか、こちらを馬鹿にしていると取れる態度を崩さなかったアスムンドも、さすがに降参したのでしょう。
熊の毛皮を脱ぐと乱暴に脱ぎ捨てましたわ。
熊の下から出てきたアスムンドの姿にドローレスとシンが絶句してますわ。
わたしも予想していた筋肉質の大柄な青年というイメージとは違ったので意表を突かれましたけど。
背の高いスラッとした青年……というにはまだ、幼さが残った美少年がそこに立っていたんですもの。
金髪碧眼であるのは種の特徴でもあるので諦めるとして、露わになった良く鍛えられた腕は日焼けでやや浅黒くなっているだけでなく、古傷の痕がいくつも見られました。
「ボクは下りさせてもらうよ」
わたしが『不合格』と判定する前に自分から、辞退するとは中々にやりますわ。
ただ、態度がよろしくないのですわ。
口の端を僅かに上げた侮蔑を含んだ言い方ですもの。
案の定、激情家のドローレスは発火寸前になってますし、シンは珍獣でも見たように放心状態になってますわ。
わたしも面白い物を見たと少しばかり、興味を惹かれましたけど、後悔先に立たずですわね。
この時、アスムンドが投げ捨てた毛皮を決して、見落とすべきではなかったということを……。
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