第12話 ヘルちゃんとおじいちゃん
ヘムヘム――ヘイムダルと一面に広がる惨状にただ呆れるだけですわ。
人とは何と愚かな生き物なのか、と……。
「酷くなる一方だな」
「そうでしゅわね」
ニブルヘイムへと送られてくる罪を犯したとされる者の数が増えてますの。
おまけにその状態は悪化してますわね。
アグネス達が送られてきたのが始まり。
あれ以来、罪を犯したとされる人間や神が送られて来たり、自らの意思で渡ってきて、ニブルヘイムの死者は増える一方ですわ。
それでも最初の頃はまだ、生命の火が残っている者でしてよ。
だからこそ、彼らは死者の国で第二の生を謳歌してるんですもの。
今はどうですの?
生命の火がとうに消え失せた屍が延々と並んでましてよ。
「どうして、こんなことになったんでしゅの?」
「大方、戦だろうさ。ああ。お前さんは知らなかったか」
アグネス達がいたゲメトー王国が既に滅んだことは
利権が絡み、大きな争いが起きたことも知ってますわ。
彼女らが追放されたのは逆に僥倖でしたわね。
もしも、あのまま国に残っていれば、巻き込まれて、命を失っていたのではないかしら?
その後、ゲメトーを中心に広がった小さな火の粉が大火になって、さらなう大きな戦禍になったということですのね。
「こりゃ、俺の単なる邪推ってヤツさ。だから、聞き流してくれてかまわねえさ」
「なんでしゅの?」
「ロキの仕業だな。あいつの特技は変化と暗躍だ。例の悪女ってのもそういうことだろうさ」
「なりゅほど……」
アグネスを悪役令嬢と貶めた真に悪女と言うべきヒラリー・ド・インデス。
彼女のその後が杳として知れない訳ですわ。
正体がロキその人であれば、何もおかしなことはないですもの。
まさか、戦を起こすことが目的だったとは……。
いずれ起こるという
そうはさせませんわ。
わたしと
「……という訳なんでしゅわ」
「ふむ。全く、分からないのである。わははー」
これでは
無意識のうちに尻尾が地面を激しく叩きつけてますけど、これは
「おにいちゃまはそのしゅがたしてるかりゃ、頭がポンコツではございましぇんの?」
「違うのである。吾輩は狼の姿でなくても同じである。吾輩は最高なのである。あおーん」
そう言うとフェンリルの姿で天に向けて、咆哮するものですから、空気がビリビリと震えてますわ。
この前、わたしが少々、破壊した森ですけど、少しくらいは戻りつつあったところにこれですから……また荒れてしまったかしら?
「分かっているのである。心配無用なのである。吾輩に任せておくのである!」
「本当にわかってりゅのかしらぁ?」
フェンリルの姿のまま、木々を薙ぎ倒しながら、さらに森の奥へと入っていくお兄様を見送って、不安しかありませんわ!
もしも、本当に
戦は魔槍で始まる
そうなるとお兄様に暴走されて、全ての計画が台無しになってしまいますわ。
立ち尽くしていたわたしは隣に不意に気配を感じましたの。
このような芸当が出来る方は限られてますわね。
それにこの気配は懐かしくも感じるものですわ。
「苦労しておるようだな。うまく、いきそうかね?」
全身を闇夜を思わせる漆黒尽くめの装束でこの懐かしい声は間違いありません。
お祖父様ですわ。
「おにいちゃまがあたちの手に負えましぇんでしゅわ」
「そうか、そうか」
温かく、大きな手がわたしの頭を静かに撫でてくれましたの。
お祖母様やお母様に盛大に褒められることはあっても頭を撫でられたことはないですわ。
何だか、心が落ち着いてきますの。
なぜかしら?
不思議……。
「あやつはあのままでいいんじゃ。あのままでな」
僅かに見えたお祖父様の隻眼に浮かぶのは後悔?
それとも羨望?
未来を視ているお祖父様の考えはわたしに想像出来ないものなのでしょう。
それでもはっきりと分かることはたったの一つ。
この一点ですわ!
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