第2章 リリス・幼女時代
第6話 ヘルちゃんとお兄様
兄
世界蛇の頑強な肉体を得たことで持て余していた膨大な魔力を自在に操れるようになったのだ。
魔力過多の症状が出た時、発生した
原因は彼女自身にあった。
体から、漏れ出た魔力が暴走し、吹き荒れていたのだ。
それが真相だった。
かくして、強靭な肉体を得たリリスだが代償として、その肉体はより異形の者に近付いた。
両手の爪はまるでナイフのように鋭く、長く伸びてしまい、血の色に染まっている。
腰骨の辺りから、伸びる黒い鱗に覆われた長い尻尾は自由自在にうねっていた。
「お城……お城……
「おしゅろ~おしゅろ~」
その絵本の挿絵に描かれていたのが、湖畔に建つ白亜のお城。
お姫様は真っ白できれいなお城に住むものだと学びましたの。
お城についてもしっかりと話を聞いて学習しましたわ。
万に一つの死角もございませんわ~!
「何か、違いましゅわね」
「ましゅ~ましゅ~」
頭の上に乗っている
それもそのはず。
右から見ても三角。
左から見ても三角。
上から見ると四角形。
何ですの、これ?
お城でないことは確か!
「もう一度、やり直しでしゅわ。
「りゃいず~りゃいず~」
気のせいかしら?
ニーズヘッグの舌足らずな鳴き声にどこか、祈るような思いが感じられたのですけど。
石造りの三角なお城もどきが消え失せ、巨大な石組みの建造物がわたしの目の前で組み上がっていく。
そして、出来上がったのは純白の美しい外壁に四層に分かれた構造に灰色の屋根が葺かれている。
これがお城?
「お城には見えないでしゅわ」
「ちゃう~ちゃう~」
そうですわね。
これはお城ではありませんわ。
遥か東方の国で変わった城塞が築かれているという話もあるみたいですけど……。
わたしの考えるお城ではないから、却下なのですわ!
もう一度、
「何をしているのであるか?」
背後から聞こえてきたのは聞く人によっては耳元で囁かれると脳が溶けると評判のよく知っているテノールボイス。
ええ、良く知っていますとも。
「おにいちゃまには関係ないことでしゅわ」
「にゃいよ~にゃいよ~」
首がミシミシと音を立てている。
そんな錯覚を受けるほどに振り向きたくなかったのですわ。
「吾輩にどんと任せれば、大丈夫である!」
胸板をドンと叩いて、アピールしているのは見た目だけなら、銀髪の美少年。
振り向きたくなかったのは彼が何も着ていないからですわ!
どうせ破れるから、着るのが無駄・面倒とアグネスが口が酸っぱくなるほどに説得してもドローレスに実力行使で無理矢理、着せられてもすぐに脱いでしまう。
とても困った人でしてよ。
「おにいちゃまが得意なのはこわしゅことだけでしゅわ」
「たりにゃ~たりにゃ~」
ニーズヘッグは恐らく、『頭が足りない』と言いたいのですわ。
お兄様は服を着ないのが問題ではありませんもの。
裸族であることなど、些事。
先日も食べ物と間違えて、とあるおじさまの右腕に噛みつき、あわや大惨事になりましてよ?
この大馬鹿者の口は紐で縫い付けてしまえとかなり、きつくお叱りを受けたことを忘れたのかしら?
「任せるのである。壊すのであるな」
「違いましゅわ~! やめてくだしゃいましぇ~」
「ぼけ~ぼけ~」
この人の言うことを聞いていない。
聞いていたとしても理解していない残念なお兄様。
言ってる側から、大きな銀狼の姿に変じて、楽しそうにお城もどきを壊しましたの。
それはもう壊し方だけは完璧なせいで
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