第29話 犠牲
魔女の頂点に立つ魔法の大家である
その血を色濃く継いだわたしは物心がついた頃にはあらゆる魔法をどのようなものでっても難なくこなせましたの。
ただ、例外がありましてよ!
光の属性である癒しの魔法だけが、どうしても発動が出来ません。
これはわたしにも多少なりとも流れている父の闇の血が何か、作用しているのではと睨んでいたのですけど……。
「え?」
『光あれ』という謎の声の宣言とともに激痛が身体を駆け巡りましたの。
体内から、まるで燃やされているような激しい苦痛。
違いますわ。
わたしの体が炎に包まれているの?
手も……足も……全てが燃え盛る炎で焙られていて。
体が熱い……。
でも、このくらいの痛みを我慢出来なくて、どうしますの。
レオは今、もっと辛い目に遭っているのに!
「……!?」
鏡に映し出された光景はあまりに衝撃的で言葉を失ってしまいました。
レオが独特の構えからカタナを鞘に納め、抜き放った一撃。
その威力はあまりにも凄まじくて、きれいでしたわ。
蒼い光は恐らく、雷の属性に由来するもので間違いないでしょう。
そして、あの技は
強大な魔獣の姿をしたお兄様ですら、あの技を撃てば、ただでは済まないのにレオはあの小さな体で撃ってしまったのです。
「レオ!」
レオの身体はぐらりと傾くとそのまま、受け身もとることなく、倒れました。
大地に広がっていく赤い染み。
このままでは本当にレオが死ぬ……。
わたしに癒しの力が使えたら、レオを助けられるのに……。
『汝の力で助けるがいい』
再び、周囲が暗転して、一瞬意識が飛びました。
慣れてきた目が捉えたのは澄んだきれいな水が
先程まで血のような色をしていた泉が嘘のように澄んでいます。
「レオ?」
流れる血が悪さをするかのような激痛と体に何も纏っていないことを忘れ、わたしは倒れているレオのもとに駆け寄りましたの。
流れる血は止まらず、全身も傷だらけ。
倒れたままのレオはピクリとも動きません。
「嫌……ダメよ。レオ!」
彼の小さな体を抱き上げて、その上半身を抱き締めるとどんどん、その体温が失われていくように感じます。
このままでは本当にレオは……。
「わたしの体はどうなってもいいから、レオを助けたいの」
徐々に冷たくなっていくレオの体を胸に抱いたまま、わたしはこれまで一度も使ったことのない魔法を使うことに決めましたの。
「我が手の触れし、あまねく全てのものに等しく癒しを与えよ。
まるで全身を引き裂かれるような激しい痛みが襲ってきますが、負けてなるものですか。
絶対に助けたいの!
わたしの体から、黄金色の魔力波が発せられていきますけど、それと同時に全身を業火で焼かれている錯覚を覚えますの。
これは幻覚?
それとも本当に燃えているのかしら?
でも、いいの。
レオが助かるのなら、わたしは……。
魔力波がレオの体を覆い尽くしたのを見て、安心したせいでしょう。
緊張の糸が切れたわたしの意識は再び、闇の中へと落ちていったのですわ。
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