第3章 荊の姫君

第13話 荊の城の姫

 湖畔に建つわたしの城、荊城ドルンブルグ

 周囲を荊の生垣で囲まれ、五本の尖塔がアクセントになっている白亜の城ですわ。


 この荊にもちょっと秘密がありますの。

 悪いことを企んで近寄ってはいけなくてよ。

 干物になりますわ。

 おハーブの材料になりたくなければ、迂闊に近づかないことですわね。


 以前、具現化マテリアライズに挑んだ時はイメージもはっきりとしていなかったのが失敗の原因でしてよ。

 具現化マテリアライズは頭の中でどれだけ、忠実かつ精緻にイメージを出来るのかが重要なんですの。

 イメージが不完全では内装が失敗しましてよ!


 思考錯誤の末にようやく、完全なる城が完成しましたの。

 開かない扉があったり、途中でなくなる階段は愛嬌ですわ~。


 この城こそ、わたしが夢見たお姫様のお城にして、ニブルヘイムの象徴ですわ。


 具現化マテリアライズ成功に味をしめたわたしは、これを機に皆の住居も丸太小屋から、石造りの立派な物に変える計画を進めたのですけど……。

 好評どころか、意外にも不評でしたのよ?

 おかしいですわね。




 そんなこともありましたから、一人で考えに耽るのも悪くないと思いましたの。

 幸いなことに本気で隠れたら、誰にも見つけられませんから。

 たまには一人もいいものですわ。


 湖面に映る自らの姿を見て、ものだと改めて、自覚してますの。

 手足も伸びましたし、背だって、こんなに……。

 他はまだ、成長していないところもありますけど、実際にを果たしてますもの。


 大人になった以上は面倒な儀礼がわたしを待ってますわ。

 それもまた、一人になりたい理由でしてよ。

 全てがわたしを蚊帳の外にして、決められているんですもの。


 ええ。

 わたしも舌足らずの喋り方だった頃は少々、お転婆が過ぎたと反省してますのよ。

 イズンとも派手にやらかした記憶がありますもの。

 あれで『暗黒の森』の一部が完全に不毛の地になりましたでしょう?

 絶対零度アブソリュートゼロを滅多に使ってはいけないと学習しましたの。

 偉いでしょう?


 ちゃんと学びましてよ。

 もっとピンポイントで凍らせることを覚えましたから、大丈夫ですわ。




 イズンですの?

 彼女はわたしよりもやや年長者でしてよ。

 わたしよりも先に大人の仲間入りを果たしてますわ。


 彼女は彼女で大人になった以上、色々と大変なんですの。

 それもあって、ニブルヘイムから余計に出たくないようですわ。

 アスガルドに戻れば、意に沿わぬ縁談が待っているからではないかしら?


 先日もそのことに絡んで、イズンと『真実の愛』が本当に存在するのかで論争になりましたの。

 わたしには薄っすらとしたもやがかったあやふやとした記憶がありますでしょう?

 飴玉を喉に詰まらせたことでその記憶が呼び覚まされたのですわ。

 物語のように燃え上がる恋の記憶。

 わたしが愛して、わたしを愛してくれた人の記憶が確かに胸の中にあるのですわ。

 確かに覚えているんですもの。


「『真実の愛』はありますわ」

「そんなものある訳ないじゃない。夢よ。幻よ。あたしだけを見てくれる人なんて、いないのよ」

「そんなことありませんわ。イズンのことだけを見てくれる素敵な方が現れますわ」

「いる訳ないって!」


 そんな不毛な会話を繰り広げた後で一つの賭けをしましたの。

 『真実の愛』は本当にあるのかを実際にこの目で確かめようというものですわ。


 この勝負は結局、決着がつかなかったのが残念ですわね。

 (この『真実の愛』を巡る賭けの物語は別の作品として、そのうち公開されるかもしれません)

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