第17話 勇者選考会

 まだ、顔合わせをする訳ではありません。

 現状では叔父様への挨拶だけしか、許されませんの。


 パッと見たところでは本当に選りすぐったのかと目を疑うような面々に見えたのは気のせいかしら?

 杖をついて、歩くのもようやくという足元も覚束ないおじいちゃん。

 それにわたしよりも幼く、見える小さな男の子までいますわ。

 本当に勇者なのかしら?

 チラッと見えたのは小さな男の子の黒い髪でしたの。

 なぜかしら?

 心に僅かに引っかかるのですけど……。



 

 ここから、蠱毒こどくの如く、ふるいにかけるらしいですわ。

 およそ二十名くらいと多いので一気に落とすとスカージがとても悪そうな顔をしてましたわね。

 恐らく、スカージとシンが実地で勇者様を試すのでしょう。


 それが最初の関門なのでそれすらも通らない者にわたしの顔を見せる訳にはいかない……というのがスカージの言い分ですわ。

 わたしの顔や存在にそこまでの価値があるのかしら?


「不思議ですわ」

「不思議でも何でもありません。もう少し、自覚を持ってくださいまし」


 アグネスにまで怒られましたわ。

 イズンとこっそりと抜け出して、あちら側に行っていることもバレているらしく、はっきりと指摘しないでわたしに認識させようとするところが彼女らしいですわね。


「白はわたしに似合わないのではなくて?」

「大丈夫ですわ。何も心配なさらずにお任せくださいませ」

「は、はい」


 アグネスの有無を言わさない口調から、従わざるを得ないようですわ。

 わたしは髪が少しばかり、銀に近い白金色で瞳が紅色のせいか、アルビノと勘違いされるほどに肌も白いのです。

 白に白では保護色になって、映えないと思うのですけど……。


「どうです?」

「まぁ。さすが、アグネスですわ」


 白い生地に金糸でエングレービングが刺繍されたチュニックドレスとローブの組み合わせはアグネスの言う通り、わたしに似合ってましたの。

 鏡を見て、自分でも驚きましたもの。

 『お姫様がいる』と。


「姫様。とりあえずは十名まで絞りましたよ」


 アグネスとさらにどういう髪型にセットをするのか、髪飾りをどれにするのかと盛り上がっていたところにスカージが顔を出しましたの。

 一枚の紙切れを手にしているのでどうやら、一次選考とやらが終わったのでしょう。

 ちょっぴり上気したような彼女の表情を見ると何をしてきたのかは一目瞭然ですわね。

 息は上がっていないようですから、手加減はしたのでしょうけど。

 さて、どのような方が残ったのかしら?

 一応、目を通しておかないと顔合わせしないといけませんもの。

 事前情報は大事ですわ!


 ええと、凍てつく地のフロムンド……今回、最高齢の勇者と書いてありますわ。

 あの覚束ない足取りのおじいちゃんが受かりましたの?

 どうなっているのかしら。

 スカージの相手どころか、シンとの摸擬戦すら、通りそうにないですけどあの二人が手抜きをするとは考えられませんわ。

 では擬装して、無力なお年寄りを演じていたということかしら?

 そうなると中々に曲者ですわ。

 しかし、おかしいですわね。

 お祖母様はわたしと同年代を集めたと言ってなかったかしら?

 どこがですの!?


 それから、魔剣ダーインスレイヴを持つホグニ。

 ダーインスレイヴで数々の敵を屠ってきた猛者とありますけど、単なる殺人鬼の間違いではなくて?

 本当に勇者なのかしら。

 実力の方は確かなようですけど、危ない人として注意しないといけませんわ。


 あら? スキルニルの名がありますわ。

 スキルニルはフレイ大伯父様の従者ですわね。

 これはお祖母様の差し金とみて、間違いないでしょう。

 通さないで落としたりしたら、あとでお祖母様から、説教されそうですわ。


 スタルカドは巨人族の青年……。

 巨人族なのは構いませんわ。

 正しい心を持っていて、弱者を労わる優しい心を持っているのであれば、巨人であろうとも。

 でも、ホグニと同じ気質に思えますのよね。


 次に参りましょう。

 ええと、呪いの戦士ビャルキは呪いにより、抜群の膂力を有しているとありますけど。

 呪われている者が勇者なんですの?

 よろしいんですの?

 呪われながらも戦うところがロマンとでも言うのかしら?

 これも実際に目で確かめないといけませんわね。


 狂える戦士アスムンドは狂戦士ベルセルクであって……これはいけないのではないかしら?

 彼らは戦いを愛し、血を好む者。

 勇者というよりは勇士であって、勇気ではなく勇敢なだけではないかしら?

 この方も実際に見てから、ですわね。


 最後は小さな勇者レオニード、ですわ。

 あの小さな男の子のことかしら?

 黒い髪……。

 霞んでまるで霧の彼方に薄っすらと見える景色のような記憶の中に黒い髪の青年がいます。

 まるで物語の中の王子様のようでわたしの胸は張り裂けそうなくらいに苦しくなりますの。

 ただ、同じ髪の色なだけですわ。

 気になるのもそのせいですわ!


 そう思いながらもわたしは明日の顔合わせが楽しみで仕方ありませんでしたの。

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