第31話 フォークより重い物は持てません

 着てませんわ!

 おまけに装身具類を外したのと精神的に不安定になったせいで間違いないわ。

 赤い爪が伸びてますし、見慣れた黒い鱗に覆われた尻尾が……。


 まずい……これは非常にまずいですわ。

 レオに体を見られるのよりもこの爪と尻尾を見られる方が遥かに恥ずかしいわ。


「嫌われたくないもの」


 レオの中のわたしはか弱いお姫様……え?

 か弱くないお姫様?

 わたし、フォークよりも重い物は持てないですわ。

 ほ、本当でしてよ?


「うっ……」


 その時、レオの顔が微かに歪みました。

 まだ、痛みがあるということかしら?

 目立つ外傷は消えたように見えるし、血も止まっているのに……。


 もしかして、内臓に何らかのダメージが残っているのかしら?

 神聖治癒ディバインヒールは実在が確認された治癒魔法の中でもっとも効果の高いもの。

 金色の光が見えたのですから、いかなる怪我も病も治せるはずなのですけど、おかしいですわ。


 そう逡巡している間にもレオは顔をしかめているので痛みがあるのは間違いないのです。

 一体、どうすれば、いいの。


 以前、聞いた話を思い出しました。

 癒しの魔法は直接、触れることで発動する魔法。

 そうである以上、互いの距離が近く、より接する方が効果も高い、と。


 つまり、経口摂取が最適ですわ!

 キ、キ、キスをすれば、問題なくレオを治せるはず。

 そう。

 これは治療なので何の問題もないし、意識をしてはいけないですわ。


「あ、あ、あのね。レオ。こ、こ、これはを治す為なんだから」


 神聖治癒ディバインヒールを発動させて、レオの唇に……。


「あれ? 何してるの、リーナ」

「な、な、な!? ど、どうして!?」


 レオがしっかりと瞼を開けて、こちらを見ていますわ。

 わたしと視線が交差して……。

 色々と凝視されたような……。


「ピン……」

「きゃああああああああああ」


 つい過剰反応で思わず、レオを力任せに突き飛ばしていました。

 それもいつも以上に力が入ったような……。

 でも、フォークより重い物は持てないから、平気……ではなさそう?


 レオは数メートル先にある気に頭をぶつけて倒れています。

 頭頂部に大きなたんこぶが出来ていて。

 目を回しているわね……。

 やってしまいましたわ。




 レオが目を回している間に髪留めを付け、装身具類を身に付けます。

 これで一安心。

 怪しいものは見えなくなったはずですわ。


 レオにも見られていないはず。

 ピンの続きで何を言いたかったのかが分かりませんけど。

 レオの目線が見ていたのは丁度……下手に考えると顔が火照りそうだから、やめましょう。


「よぉ~し。これで大丈夫」


 もうローブを着る必要がないので亜空間の物入れから、取り出した純白のゴシックドレスを着ます。

 何か、忘れている気がしますし、スースーしますけど。

 丈がやや短いせいかしら?


「さて。いつまで隠れている気ですの? お義兄様」

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