第27話 ※仮で投稿します
椿にも見えたあれは、間違い無く幽霊の類だ。彼は今もあそこに拘束され、落ち続けている。
椿は恐怖するでも無く、ただ「何これ」と理解不能な現象を無表情で見ていた。そんな彼女が居たからこそ、俺も冷静だったのかも知れない。
彼女の手を引き、急いでその場から去った。次にそこを見た時、彼は居なかった。
⭐︎
「神栖君、ちょっと……」
美妃虎子は、思い悩んでいる様子だった。久遠が停学となり、友達の彼氏は病院で死亡した。彼女自身は手に傷を負っただけだが、同時に心にも大きな淀みが生まれた。
「あの……後輩の眼に隈のある女の子が居たじゃない。彼女が言ってた旧校舎の呪いが如何とかって……」
「大丈夫。飛び降りた場所が違うから、関係無いだろうってさ」
「そ、そう。それならいいんだけど……皆んな噂してるっていうか、久遠もあの時可笑しかったし……」
久遠が殴り倒した相手は、美妃に好意を抱き付け回していた不良グループの男子生徒だった。久遠はその事に危機感を覚えていた。
当日、その男子生徒に美妃が絡まれていた所を一方的に久遠が暴力を振るった。男子生徒は全治二ヶ月、久遠自身も手に怪我を負い無期限の停学となった。
「確かに最近エスカレートしていて怖かったけど、久遠があそこまでするなんて……あいつ私の事をいつも適当に扱う癖に、もう分かんないよぉ……」
違和感はあった。久遠のあの表情といい、間違い無く何かの影響を受けている。
桜木は、「自分を傷付ける人が増えた」と言っていた。彼の行動は、その範疇なのかも知れない。
だとすると、やはり呪いが関係している。
「何が起こっているのか分からないけど、何か起こっているのは確かだ。でも、神委家に任せておけば大丈夫って、桜木もそう言ってたから、後は時間の問題だよ」
直感だが、気持ちが大切だ。美妃には希望を与えておいた方がいい。
「そ、そうだよね……あ! 神栖君。今度久遠の家に行こうと思ってるんだけど、着いてきて欲しいっていうか……」
「分かった。いつ行く?」
「有難う! そうだねぇ……」
すると、背後で声がした。純恋樹咲だった。
「あ、あの……」
彼女はいつもながら自身無さげに、話掛けて来る。だが、それに美妃は敵意を持って反応した。
「何?」
「あ、えっと……遠鐘君の話聴こえたから……」
「……はぁ、しつこいね。もういいや、神栖君また後で」
美妃はそのまま行ってしまった。どうしてここまで仲が悪いんだ。映画を観た時は、あんなに……いや、純恋が白鷺以外と話したのは、俺と椿、桜木だけだ。あの時は純恋に反応している素振りすら、美妃は示していない。
「……い、行っちゃったね」
純恋は笑みを浮かべ、健気にもその事実を真摯に受け入れようとしている。
「純恋さん、どうしたの?」
「あ、うん……私も同じ様な体験が昔あったから……美妃さんを元気付けたくて」
「同じ様な!?」
「小学校三年生の時何だけど、神栖君も覚えてるよね……?」
記憶を探るが、特別大した物は出て来ない。
「全然覚えて無い」
「い、いや、そんなの可笑しいよ。わ、私が殺したの神栖君のお友達だったでしょ? って、こんな話しても美妃さんにもっと嫌われるだけだよね……」
「殺した……!? 純恋さんが!?」
「こ、声が大きいよぉ」
「う、うん。神栖君にも嫌われてるって思ってたけど、いつも普通だったから……何で忘れてるのっ!?」
「待て待て、何の冗談だ? これ以上は俺も頭が回んないっていうか……」
「鏡連真君、覚えてない?」
鏡は知っている。鏡夜鈴、桜木の友達だ。連真は、やっぱり知らない。でも、どうしてだろう。知らないのに、脳が、いや心が彼に只ならぬ反応を示している。
「分からない。よく分からないや」
「そ、そうなんだ」
「何で殺した?」
「え? う、うん。あ……えっと、上手く説明が出来ないんだけど……殺してやろうって思った、から……」
久遠も似た様な事を言っていた。だが、彼女は今から八年近く前に殺害している。その時にも同じ事があったのだろうか。
「その時の状況で気になる事ある……?」
「き、気になる事って言われても」
「今みたいに事故が多かったとか」
「そ、それは無いと思うけど……家庭環境は私あんまり良く無くて……あ! お、お腹の子供に障がいがあるって分かってね……お母さん、堕したの。その次の日に、私は連真君を」
堕したって、あの白い少女関連か?
「そっか、純恋さんも苦労してるんだな。でも、結局よく分からないや」
「き、嫌いにならないの……?」
「んーびっくりしたけど、俺覚えてないしなぁ。被害者には申し訳無いけど、俺に対しては気負わなくていいよ」
「ほ、ほんと!? と、友達?」
「ああ、友達だ」
陰でこっそり覗いてる白鷺が見えた。
⭐︎
遠鐘家の住所を美妃虎子から訊き出し、現地集合にして貰った。理由は、純恋樹咲を連れて来る為だ。
純恋は遠慮していたが、こっちは強引に連れ出した。
そして、当日。
「何で貴方も来てるの……!?」
当然の問い掛けが、美妃からあった。
「白鷺さんの後ろに隠れて、今度は神栖君って訳ね。私ね、別に絡んで来ないなら放って置いたけど、そうやって来るんなら徹底的に攻撃するよ」
「純恋さんは、人を殺してる。だから嫌ってるんだろ?」
「当たり前じゃん。私の目の前で、私の友達を包丁で刺し殺したんだよ!? 皆んな嫌ってるよっ!!」
え、そうなの?
「罪が消える訳じゃ無いが、八年前の話だ。九歳に責任能力は無い」
「あんた、それ乙葉にも言えんの? 雨後君死んで、乙葉にも過去の話だからって言えんの?」
「そんなの……言える筈無いだろ」
「そうよねぇ。今私にそれ言ってる自覚あんの? 大体、この子が被害者面でヘラヘラしてるのが昔から癪に触るの。三年間学校に来なかったと思えば、元気に登校して来て。何なの?」
「純恋さんも被害者だ。久遠と同じでな」
「は?」
「久遠も急に殺したくなったって言ってたろ。純恋さんもそうなったらしい」
「そんなの言い訳じゃん。本当かどうかも怪しいし。それに、結果的に久遠は殺してない」
「俺の父親警察官なんだ。あの時来てたろ。もう少しで死んでたって……脳にまでダメージが行って、深刻な障がいも残るそうだ」
「だ、だから何?」
「殺人は確かに一線を超えてるけど、大きいか小さいかは関係無いよ。美妃さんが、久遠の言い分を聞き入れるなら、純恋さんの言い分も聞き入れて欲しい」
「二人共、何かに影響を受けた結果だ。久遠は恐らく今学校で起きている呪い。誰かの悪意なのか、自然現象なのかは知らないけど……」
「じゃあ、その子のは何」
「分からない。ただ事実として、母親の堕胎の後に、鏡連真君を殺している。そして、堕胎された赤ちゃんの魂を回収してる者がいる」
「え、ごめん。全く意味わかんない」
「俺も分からないが、事実だ。そしてもう一つ、今思い出したけど……これは、かなり重要な気がする。その魂を回収してる者は、強烈な悪意を持っている」
「……作り話だったら、葵さんに他に好きな人が居るってバラすよ」
「わ、分かった」
「はぁ、じゃあ仲直りしましょ。ほら、怖がらずに出ておいで」
「御免なさい。御免なさい。御免なさい」
「もういいから。そっか、もう八年前なんだ。一人で良く耐えたね」
「なあ、上まで聴こえてるんだけど……」
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