魔王二天王デミスト(中編)

「戦いをやめて!!」


 私は大声を出して戦いを制止した。

 

「ラティリス?」


 急に戦いを制止されて、ルランドは驚いた表情で私の方を振り向いた。

 デミストを含めた全員が私に注目している。


「私がデミストと話をするわ」


「人間の娘が、私と話をしたいだと?」


「何を言ってるんだ、ラティリス?! 危険過ぎる!! 俺がお前にそんなことさせるはずないだろう!!」


 ルランドの気持ちは痛いほど分かる。

 逆の立場だったら、私もルランドに同じことを言っただろう。


「ありがとう、ルランド。でも、大丈夫だから」


「フ、面白い。何の話がしたいのかは分からんが、その提案、受けさせてもらおう」


「きゃっ!」


 デミストが瞬時に間合いを詰め、私を抱きかかえた。


「ラティリス!!」


 私の名を叫んでデミストに切りかかったが、高速で空へ飛び上がったことにより、ルランドの剣がデミストに届くことはなかった。


「戦う意思のない者を悪いようにはしない。しばし、この娘は預からせてもらうぞ」


 デミストはそう言い残して、そのまま高台へと飛んだまま移動した。



「それで、俺に話とは何だ?」


「ええ、時間もないから単刀直入に聞くわ。デミスト、あなたは亜人に戻りたいの?」


「何故、魔族が元亜人だと知っている? ああ、そこにいるシルフから聞いたのか」


 デミストはエアルから聞いたと思ったようだ。


「確かにそう思っていた時期もあったが、俺はとうの昔にそれは諦めている」


「もし、魔族を亜人に戻す方法があるとしたらどうしますか?」


「亜人に戻れるとしたら……か。争いがない世界ならば、それもいいのかもしれないが、今の世界では護りたい者を護るためには力が必要だ。だから、たとえ亜人に戻れるとしても、俺は亜人には戻らないだろう。ただ……」


 魔族の世界は、おそらく力が全ての社会。

 そんな世界で力を失うことは、魔族でいることより恐ろしいことなのかもしれない。

 

「ん、ただ?」


 まだ話の続きがあるようだ。


「我が主君の幼い魔王様は亜人に戻してあげたいとは思う」


「幼い魔王を亜人に?」


「最近、即位した幼い魔王様は、まだ魔王同士の争いについて多くは知らない。もし、亜人に戻ることができるのであれば戻してあげて、今の重荷から解放してあげたいとは思う」


「……え、魔王は一人じゃないの?」


 今更ながら、私は衝撃的な事実を知った。


「そんなことも知らなかったのか? 現魔王は三人いる」

 

 魔族の世界のことなど知るよしもない。


「ということは、ブラグラ王子を操っているのは、デミストとは違う勢力の魔王の仕業ということ?」 


「なるほど、知り合いの王子が誰かに操られているのだな。確かに別の魔王の三天王の一人に、相手を操る魔術を得意としている誘惑のサビスルという魔族がいる」


「やっぱり、相手を操れる魔族がいるのね」


「ただ、それを知ったからといって、お前達が魔王三天王の魔術を打ち破れるとは思わないが」


「フフ、普通はそう思うよね」


 エアルが会話に入って来た。


「風の精霊シルフが膨大な力を持っていることは知っているが、魔法の属性が違うだろう?」


「僕じゃないよ、そこにいるラティは、女神の力の一部が使えるのさ」


「……詳しく教えてもらおうか……」


 意外にもデミストがエアルの話に乗ってきた。

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