亜人会議(前編)

「何故、我々に降伏しようと思ったのだ?」


「それは、亜人大陸に何か異変が起こっていると思ったからです」


 ダークエルフ軍の指揮官グランデル皇太子の質問に、私はそう答えた。


『同盟を結んでいるはずのダークエルフが、何故、人間大陸に攻めようとしているのか。その理由をダークエルフ軍の懐に入って突き止めてほしい。その代わり、ルランド皇太子の父親が治めている王国が攻められた時には、帝国が全力で援護することを約束する』


 これがシルドギア皇太子と結んだ密約。


 仲が悪かった王国間の国境には、互いの国防のため、既に壁が築かれている。

 その国境沿いを防衛線とした方がよいというシルドギア皇太子の提案は、私も納得できる部分があった。


 わずか半月では、攻めてくるダークエルフ軍に対抗できるだけの軍備を整える時間はない。

 私達は国民をルランド皇太子の故郷の王国に逃すことを最優先した。


 三分の二の国民は隣国へ移動したが、残りの三分の一の国民は故郷を離れたくない等の理由でこの王国に留まった。

 私はその国民達のためにも、この王国に残ることを決めた。


 それに、亜人大陸で何が起こっているのか。

 好奇心の強い私は、個人的にもその理由を知りたいと思った。


 父親に溺愛されているルランドには、故郷の王国に戻った方がいいと提案したが、


『俺がラティリスにだけ危険をおかさせるような選択をすると思うのか?』


 と即答で却下された。


 それだけにとどまらず、


『ラティリスの中の俺の存在は、その程度の存在なのか?』


 とも言われてしまった。


 そこまで言ってくれている婚約者の気持ちを無下むげにすることはできない。

 私だけで果たそうと思っていたシルドギア皇太子との密約は、ルランドと一緒に果たすことになった。


 王族を追い出す時に集った義勇軍は、私達が残るということを知ると、王国の秩序を護るために残りたいと進言してきた。

 その義勇軍が今は憲兵の役割を果たして、王国の秩序を守ってくれている。


「亜人大陸の異変を知ったからといって何ができる? お前たちは、私の指示通りに動いていればいい」


 やはり、亜人大陸に何か異変があったようだ。


「いえ、私達は必ず役に立ちます。例えば、あなた方の貧困や食糧問題を解決できると言ったらどうしますか?」


「フ、そんな戯言ざれごと……。だが、聞くだけ聞いてやってもいい」


 どうやら図星だったようだ。


 グランデル皇太子と何度か話をしたが、好戦的な素振りはなく、支配圏を増やすことに強い願望があるとは思えなかった。

 となると、おそらく今回の領土拡大は国民を想っての行動。

 

 ダークエルフの王国は不毛の地が多く、貧困や食糧問題に悩まされているという話は周知の事実。

 そのため、人間大陸に攻めて来た理由の一つは、国民の貧困や食糧問題の解決であると予想したのだが、それは見事に的中した。



 そしておそらく、もう一つの理由は……

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