帝国の拉致(後編)
「さあ、今回はどんな言い訳をするんだ、シルドギア」
別荘のテーブルに着くなり、ルランドはシルドギア皇太子にそう言って詰め寄った。
今回はということは、過去にも二人の間で似たようなことがあったのだろう。
「まあまあ、少し落ち着こう、ルランド」
「俺の婚約者をさらっておいて、どう落ち着けと?」
ルランドがあからさまに怒っている。
私のために怒ってくれてると思うと、ちょっと嬉しかったりもする。
「とはいえ、ラティリスも抵抗しなかったようだしな、何か理由があるんだろ?」
ルランドは溜息をつきながらそう言った。
「思っていた以上にラティリス嬢は聡明な女性だったよ」
「俺が選んだ婚約者だぞ。当然だ」
あのー、私もこの場にいることを忘れていませんか?
褒められ慣れていない上に、皇太子二人から褒められていると思うと、さすがの私も心臓の鼓動が早くなった。
「僕からすれば、ルランドが婚約したこと自体が驚きだったけどね。帝国の魔法学校で一緒に学んでいた頃は、女には興味ないとか言っていたのに」
なるほど、腐れ縁と言っていたけど、二人は帝国で同じ魔法学校に通っていたのね。
「それだけ、ラティリスがいい女だったということだ」
ちょっ!
そんなに堂々と言われると、こっちが恥ずかしくなる。
「ハハ、なるほどね」
二人は腹を割って話せる間柄なのだろう。
最初は言いたいことを言い合っている皇太子二人の会話を聞きながら、国レベルの揉め事に発展してしまうのではと心臓がドキドキしていたが、二人の雰囲気をしばらく見ている内に、逆に心を許せる友人同士なのだと分かってきた。
「……それで、どうして私は拉致されたのでしょうか?」
ルランドの私への気持ちが聞けたのは、正直、嬉しかったけど、拉致された当事者を置き去りにして、二人だけで盛り上がるのはやめて欲しい。
「コホン、そうだね。ダークエルフが攻めてくるということを伝えたかったという話は道中でしたけど、本題はここからなんだ……」
シルドギア皇太子は咳ばらいをして場を整えた。
そして、私達をこの別荘まで連れて来た理由を話し始めた。
◇
「もう、来たのね」
「ああ、あっという間だったな」
あれから半月。
遂にダークエルフの大軍が攻めて来た。
高台に造られている王宮から東の海を眺めると、おびただしい数の船が立ち並んでいるのが見える。
「結局、結婚式はすることができなくなってしまったな……。ラティリス、君には本当に申し訳ないと思っている」
「結婚式どころではなくなりましたからね……。でも、ルランド、私はあなたと一緒にいられれば、それでいいんですよ。結婚式は将来の楽しみにとっておきます」
「ラティリス、俺は何があっても君を護る。だから、ずっと俺の傍にいてくれないか」
「はい、もちろんです。ルランドが離れたいと言っても離れません」
そうお互いに告白し合った後、私達は徐々に顔と顔を近づけ。
優しい口づけを交わした。
その日、私達はダークエルフの軍勢に降伏した。
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