ダークエルフの兄弟(後編)

「僕はなんてことをしてしまったんだ……」


 浄化を終えたブラグラ王子は、サビスルに操られていた間のことを思い出し、絶望の淵に突き落とされている。


「後悔してもお兄さんは戻って来ないわ。そんな暇があるなら、これからのことを考えて」


「はい……」


 それは私にも言えること、もう少し早くグランデルに状況を伝えていれば、この事態は避けられたかもしれない。

 でも、過ぎてしまったことに囚われている時間はない。


 急いで次の行動に移らなければ、グランデルを取り戻す機会は、ますます失われてしまう。


「まずは王国に戻って、王の意見も聞きましょう」


「その方がよさそうだな」


 ルランドも私の案に同意した。


 ◇


「そうか、グランデルが……」


 グランデルの父でありダークエルフの王が天井を見上げている。


「父親としてはグランデルを優先したい気持ちも当然ある。しかし、私はこの国の王だ。この国の主権を魔族に渡すことなど考える余地すらない。グランデルも、そう理解しているはずだ」


 そう言い終えた王は、血がにじみ出るほど拳を握り締めていた。


 大切な息子を人質に捕られたとしても、国民のために非情に徹する。

 それは、王として必要な器なのだろう。


 だけど。 


「私達がグランデル皇太子を救います」


 私達がその決断に従わなければならないということはない。


「いや、むしろラティリスは待機していてくれ、俺が行ってくる」


 そう言って、ルランドが私を制止するが。


「ルランドが行くのに、私だけ行かない選択をすると思うの?」


 ルランドだけ危険な場所に行かせて、私だけ待ってるだけなんてことはできない。


「はぁ、まあしないよな」


 私の性格をよく分かっているルランドは溜息をついた。


「大丈夫よ、いざとなったら、エアルもいるしね」


「任せて、どんな危機にあっても、ラティだけは何としても護るから」


「ま、そこに関しては信頼しているが」


「わ、私も行きます!!」


 エスカーネも声を上げた。

 グランデルが心配で仕方がない様子だ。


「気持ちはありがたいが、これは我々の王国の問題。お主らが危険を冒す必要はない」


「いえ、これは私達の仲間の問題です。ですから、私達が助けに行くのです」


「……そうか、グランデルは良い仲間を持ったな」


 王はしみじみとそう言った。


「では、お主達にグランデルの救出を全面的に任せたい。必要な人材や物があれば、何でも言ってくれ」


「ありがとうございます。何としてでも、グランデル皇太子を救い出してみせます!」


 私達は王の前で強く誓った。


「お主らのその想い、心から感謝する」


 そう言って、天井を見上げた王の目からは一粒の涙がこぼれ落ちた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る