魔王二天王デミスト(前編)

「こんな所で人間が何をしている?」


 あーあ、ドワーフの王国まで目前だったのに。


 どうやら、ブラグラ王子の兵士達に見つかってしまったようだ。 

  

「ラティリス、逃げろ!! そいつは魔族だ!!」


「え?」


 ルランドの叫び声が私に届いたと同時に、物凄い悪寒が背筋を走った。


「こ、この人が魔族?!」


 そうだった、ブラグラ王子だけでなく、魔族に遭遇する可能性もあるんだった。


「魔族と一括ひとくくりにしないでほしいな。俺にはデミストというちゃんとした名前がある」


「ラティリスから離れろ!!」


 ルランドが一瞬で間合いを詰めて、デミストに魔剣で切りかかった。


「魔剣? だが、まだ使いこなせてはいないようだな」


 デミストはルランドの魔剣を素手で受け止めた。


「なっ!?」


 デミストの圧倒的な力に、ルランドが驚愕の表情を浮かべる。

 初めて見せるルランドのその表情だけでも、デミストがただの魔族ではないということが分かった。

 

闇魔法稲妻ダーク・ライティング!」


 グランデルが黒い稲妻をデミストに向かって落とした。


「ん? ダークエルフと人間が、なぜ一緒にいるのだ?」


 デミストは黒い稲妻を高速で避けながら、疑問を口にした。


「ルランド、あの男はまずい。デミストは魔王二天王の一人だ」


「あの魔族が魔王二天王? まさか、これほどの力を持っている存在だったとは……。俺達が戦って勝つ可能性は?」


「残念ながら、今の私達では勝ち目はない」


「……それって、逃げる選択肢しかないよな? ラティリス、エアルの力を貸してくれ!」


 ルランドはエアルの力がないと逃げきれないと察したようだ。


「逃げるしかないみたいなんだけど、エアルの力を使えば逃げられそう?」


 私はエアルに尋ねた。


「もちろん、僕の力を使えば逃げることはできるんだけど……」


「けど?」


 エアルが何か言いたそうにしている。


「遠慮せずに言っていいよ」


「ありがとう、ラティ。彼はおそらく僕達の敵じゃない」


「……どういうこと?」


 魔族なのに敵ではない?


「ファレス様の話を聞いてるから、ラティには分かってもらえると思うけど。魔族の中にも亜人に戻りたいと思っている魔族がいるんだ」


「あのデミストが、その一人だっていうの?」


「僕が知っている話ではね」


「それで、エアルはどうしたいの?」


「うん、ファレス様の願いを叶えるため、できればデミストと話をして、魔族の情報を得たいと思ってる」

 

「なるほど……」


 正直、私はルランドとグランデルが勝てないほどの強大な力を持った魔族と話なんかしたくないんだけど。


「もちろん、逃げないといけないと分かったら、僕が全力でラティを護るよ」


 エアルには、今まで散々助けてもらってきている。

 それも友達というだけで、何の見返りもなく。


 そのエアルが遠慮しながらも、私にお願いをしてきているということは、必要な情報を得られる可能性が高いということなのだろう。


「分かったわ。他でもないエアルの頼みだしね」

 

「ラティ、無理言ってゴメン。でも、ありがとう」


 エアルはそう言いながら、私に向かって微笑んだ。

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