ルランドと私 追憶編1

「王宮生活は楽しくないのか?」


「まあ、そうですね」


 ルランド皇太子が声をかけてきたが、私は素っ気なく返事をした。


「フフ、やはりお前は面白い女だな」


「どこがですか?」


 私はそう言いながら、ルランド皇太子を睨んだ。

 面白くない女だから私は王子に婚約を破棄されたのだ。


 そんな私のどこが面白いというのか?


「俺に対して、そうやって強気な態度をとるところだ。他の者達は、近しい者ですら俺のことを怖がっている。お前は俺が怖くないのか?」


 ああ、そういうこと。

 一緒にいて楽しい人という意味ではなかったのね。


「別に怖くはないです。ルランド皇太子が怖いのって見た目だけですよね。私には優しくしてくれていますし」


 ルランド皇太子は人間大陸で上位数人に入る剣士とも言われているので、確かに威圧感はある。

 しかし、王宮で過ごして数日、見た目とは裏腹に、不器用なだけで性格は実は優しいのではと私は感じていた。


「……お前には、俺がそう見えているのか?」


「はい」


 そう即答すると、ルランド皇太子が私を凝視ぎょうしした。


「そんなに私の顔が面白いですか?」


 ルランド皇太子があまりにもじっと見つめてくるので、私は気恥ずかしくなり、面白い女という台詞から引用して質問し返した。


「あ、いや、そんなこと言ってくれたのはお前、いや、ラティリスが初めてだと思ってな……」


 ルランド皇太子は赤面しながらそう言って、私から視線をそらした。


 え、え、何?


 ルランド皇太子、もしかして照れてるの? 


 つられて、私の顔まで赤くなってきた。


「ありがとう、ラティリス」


 そう言って、ルランド皇太子は右手で私の髪にそっと触れながら微笑した。


「なっ!?」


 ……それは反則では?


 ルランド皇太子の似つかわしくない言動に、私の心は大きく動揺していた。


 ◇


「やはり、故郷に帰りたいんだな?」


 私がバルコニーから故郷の方を眺めていると、ルランド皇太子が声をかけてきた。


 帰りたいかと聞かれれば帰りたいが、王国を追放されて帰れないのが現状である。


「王宮に無理やり連れて来て悪かった。もし、ラティリスが故郷に帰りたいというのであれば、今度は無理に引き留めるようなことはしない」


「そうですか……」


 あれ、何だろう?


 自由な身になれるはずなのに、何かがひっかかるというか。


「ルランド皇太子は、私がいなくなっても何とも思わないんですね」


 気がつくと、私はそう言葉にしていた。


「な、なぜ、そうなる? 俺は、ラティリスのことを想って。……だから、俺の気持ちは犠牲にしようと……」


 後半の言葉は小声で聞こえなかったが、ルランド皇太子が私のことを想って言ってくれた言葉だったのは分かっていた。


 それなのに、どうして私はあんなことを言ってしまったのか。

 

 私は私の心を整理できずにいた。

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