ルランドと私 追憶編2
「故郷の近くに行くだけでよかったのか?」
ルランド皇太子と私は国境付近の海岸に来ていた。
ここからは、私を王国から追放することになった場所、因縁の王宮も見える。
「はい、ここで十分です」
追放されて帰れないということもあるが、最近は故郷に帰ることよりも大切な何かが自分の中に芽生えているのを感じていた。
近衛騎士達は、ルランド皇太子の命令で少し離れた所に待機している。
午前中は、アクセサリー用の真珠を水魔法を使って採集したり、釣り好きなルランド皇太子の釣りに付き合ったりした。
「魚をさばけるんですね」
「ああ、釣った魚は自分で調理したいからな」
そう言って、お昼時に刺身の和え物や焼き魚の料理をしてくれた。
「うーん、おいしーー!」
私は思わず歓喜の声を上げた。
刺身と野菜に加えた調味料が絶妙に調和されていて、味を噛み締める度に口の中が幸せに満たされた。
「ふふ、これでデザートもあったら最高なんだけど、さすがに外で食べるには贅沢な話よね」
外で開放感を味わいながら、おいしい魚が食べられてもちろん最高の気分なのだが、それはそれ、食後には甘い物が食べたくなるものだ。
「ん、焼きプリンならあるが食べるか?」
神か!!
私は心の中で叫んだ。
「もちろん、いただきます!」
追加で何か作ってるとは思っていたが、焼きプリンを作ってくれていたとか。
もう、これ以上何も言うことはない。
「喜んでもらえて、よかったよ」
私が焼きプリンをおいしく食べている様子を眺めながら、ルランド皇太子は笑顔になっていた。
その笑顔を見た瞬間、心臓の鼓動が急に早くなったのを、私は感じていた。
◇
「もう、こんな時間なんですね。楽しかったからか、時間が過ぎるのが、とても早く感じられました」
徐々に日が暮れ始め、夕日が海を照らしていた。
「そう言ってくれるのなら、連れて来た甲斐があったというものだ」
「今日は、本当にありがとうございました。久しぶりに、故郷の風も感じられました」
風と共に感じた懐かしい海の香り。
やはり、故郷はよいものだと、改めて感じさせられた。
「本当に、故郷に戻らなくてもよかったのか?」
少し感傷的になっていると、ルランド皇太子が優しく声をかけてくれた。
「はい。それにどうやら私は、あなたと……」
「あぶない!!」
ルランド皇太子が叫んだと同時に、弓矢がルランド皇太子の右腕に突き刺さった。
「え?」
何が起こったのか理解できずに頭が混乱する。
その間にも、無数の矢が次々と私達を襲った。
「ラティリス!!」
ルランド皇太子は身をていして私を
「くっ、毒矢か……。刺客だ!! 弓矢を打った者を捕えろ!!」
ルランド皇太子が大声を発し、近衛騎士達に命じた。
「ルランド!! ルランド!!」
私は必死に呼びかけながら、
「ラティリスは無事か?」
「何を言っているんですか!! 庇ったのはルランドですよ!! どうして、どうして、私なんかを……」
私は王子に一方的に婚約を破棄された、ただの哀れな女。
そんな私を、この国の皇太子であるルランドが何故庇ったのか。
到底理解できなかった。
錯乱する頭の中で唯一理解できたことは、ルランドが瀕死の状態になっていることが、ただただ悲しいという感情だけ。
「俺のことで泣くな。ラティリスには笑っていてほしいんだ……」
「無理です」
そんなことはできない。
私だけで笑えるはずがない。
だって、私はあなたのことを。
「……愛してしまったから……」
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