婚約破棄からの王国追放と敵国の皇太子(後半)

「ふふ、あの時は、本当に強引でしたね」


「今更、昔のことはいいだろう……」


 ルランドと初めて出逢った時の話をすると、ルランドは気まずそうにそう言った。


 私が王国から追放されて一年が経過した。

 

「しかし、ラティリス、お前は本当にかたくなに王国の情報を教えなかったな」


「当然です。たとえ、王子に裏切られたとはいえ、故郷の人々を裏切るようなことはできませんから」


「だが、君のような立派な令嬢を追放してしまうような無能な王子ならば、こちらが流した情報に踊らされるに違いない。そう考えた俺の戦略は正しかっただろ」


「まあ、それはさすがだと思いましたが……」


 王宮に嘘の情報を流し、民に対する不信感を与えさせて、民の不満を増長させたところで、民と一緒に王族を追い出す。


 ルランドの作戦は見事に成功した。

 

 私達が今いる場所は私が追放された王国の王宮。

 私は一年もしないうちに、ルランドの婚約者として、またこの王宮へと戻って来た。


 追放された私が、この王国の王妃になろうとしているなんて、なんと皮肉な話なのだろう。

 私はしみじみとそう思った。


「さて、君の元婚約者の話はこれくらいにして」


「ふふ、もしかして嫉妬しているのですか?」


「かもしれないな……」


 私は冗談のつもりで言ったのだが、ルランドは何故か真剣な面持ちで答えた。


「今日はやけに素直ですね。どうかされたのですか?」


 いつも強情なルランドらしくない様子が気になった。


「俺はラティリスにずっと謝らないといけないと思っていたんだ」


「私に謝らないといけないことですか? 多過ぎて、どれのことを言っているのか分かりませんが」


「ハハ、確かにそうだな」


 冗談を交えて答えると、ルランドは笑ってくれた。


「ラティリス、俺が君に初めて出逢った時、君が王子の元婚約者だということには気づいていたんだ」


 ああ、そのこと。


「あの時は君を利用できると思って王宮へと連れて行った。だから、ラティリスと婚約した時に、そのことを伝えて謝ろうと思っていたのだが……。今日までそれを伝えることができなかった」


 そう言ってルランドは私に頭を下げた。


「そのことですが、私はとっくの昔に気づいていましたよ」


「なっ?!」


 ルランドが驚いた表情をしている。


「い、いつからだ?」


「初めて逢った時です。ああ、この人は私から王国の情報を得ようとしているんだなと、そう思っていました。ですから、私は王国の情報を教えなかったのです」


「君って人は……。でも、だったら、どうして俺の婚約を受け入れてくれたんだ?」


 ルランドが私に率直な疑問を投げかけた。


「そ、それは……、察してください!」


 私が顔を真っ赤にしてそう答えると。


「ラティリス!」


 ルランドは大きな声で私の名前を呼んで、強く強く私を抱きしめた。


 そして。


「俺は君のことを心から愛している。だから、どうか、俺と結婚してほしい!」


 と私に告白してくれた。


「はい、喜んで」


 私は満面の笑みを浮かべながら、ルランドにそう告白の返事をした。


 こうして、悪役令嬢として王子に婚約を破棄されて、王国まで追放された私だったが、敵対していた王国のルランド皇太子に出逢って、本当の幸せを手に入れることができた。


 

 となる予定だったのだが……

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