悪役令嬢として追放された私が敵国だった皇太子と愛を紡ぐ

夜炎 伯空

序章 プロローグ

婚約破棄からの王国追放と敵国の皇太子(前半)

「ラティリス、他に好きな女性ができたから、君との婚約は破棄したい」


 え、この王子は何を言っているのだろうか?


 悪役令嬢に転生してから二年間、王子の婚約者として結婚式の準備も進めていたというのに。

 

「それに、君は私と婚約をしているというのに、他の男と親密な関係になっていたそうじゃないか」


 他の男と親密な関係?


 それは心外だ。

 確かに言い寄ってくる男性はいたが、私は王子が傷つくといけないと思って、心を鬼にして冷たくあしらってきた。


「そして、一番許せないのは、私の大切な幼馴染との仲を裂くために、君が幼馴染をおとしめた数々の仕打ちを私は許すことができない!」


 あー、何となく察しがついた。

 王子の幼馴染の女が、私をおとしいれるために、王子に何かを吹き込んだのだろう。


「私の幼馴染にした仕打ちを考えれば、本来、君は刑に処されても仕方がない立場なのだが、婚約期間に君がしてくれた数々の恩を私は忘れてはいない。よって、この王国から君を追放することで、私はその罪を許したいと思っている」


 もう色々とおかしくて、どこをどう弁明したらいいの?

 

 二年間尽くした恩は感じているのに、私にその真意を確認することなく幼馴染の女の言葉を全部信じるとか。

 薄々感じてはいたが、この王子は人の誠意に鈍感なのだろう。


 そう考えると、婚約を破棄されてよかったのかもしれない。

 急激に王子への気持ちがめていくのを感じた。


 元々、お父様からお願いされて、お家のためにと受け入れた婚約。

 王子から婚約を破棄したいと言っているのだから、私が未練がましく食い下がる必要はない。


「分かりました。王国からの追放で罪を許していただき、ありがとうございます」


「ふん、ありがたく思えよ」


 はぁ、この王子が皇太子だというのだから、この王国の未来はどの道暗くなるに違いない。


 私は溜息をつきながら、私の故郷でもあるこの王国の行く末をうれいた。


 ◇


「さて、この先、どうしようかなぁ」


 今後の生活に困らない程度には売れる宝石と旅路に必要な最低限の荷物を持って、私は隣の王国の道をとぼとぼと歩いていた。

 私がいた王国と敵対している王国なのだが、隣にはこの王国しかないので、追放された私はここに来るしかなかった。


「お前、こんなところにいたら危ないぞ」


 誰か知らないが、私のことを心配して声をかけてくれた。


「あ、お構いなく。私、魔法で盗賊くらいなら撃退できるので」


「ほう、それは面白い。女が一人でこんなところを歩いているので、心配して声を駆けたのだが、魔法が使えるとは思わなかった。どうやら俺の杞憂きゆうだったようだな」


「分かってもらえれば……」


 って、この人、よく見たら、ルランド皇太子だよね。

 隣の王国から皇太子が自ら交渉に来たと王宮でも話題になっていたので見たことがある。


 元婚約者の王子が優位性を示そうとして、交渉は破談になったらしいが。


「あなたは、もしかしてルランド皇太子ですか?」


「ん、そうだが……。俺のことを知らないということは、お前、この国の者ではないな」


「あ、はい、今日、隣の王国からこちらに来たんです」


「……なるほど……」


 ルランド皇太子が何かを考えている。


「どうかされましたか?」


「よし、気に入った。俺は今からお前を王宮に連れて行く」


「いえ、ご遠慮します」


 私は即答した。


「何故だ? 王宮で住まわせてやると言っているのだぞ?」


「まあ、過去に色々とありまして……」


 もう、王宮のゴタゴタに巻き込まるのは勘弁してほしい。


「フ、ますます気に入った! 多少強引にでも、お前を王宮に連れて行くこととしよう」


「え、ちょっと、待っ……」


 制止する間もなく私はお姫様抱っこをされて、ルランド皇太子の馬に乗せられた。


「では、行くぞ!!」


「え、え、えーーー!?」


 こうして、私は隣の王国に足を踏み入れて数時間も経たない間に、また王宮生活をすることとなった。

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