風の精霊シルフとエルフの姫(前編)

「先導しているのは、ブラグラの近衛騎士のようだ……」


「そんなことって……」


 グランデルが胸を掴みながら天井を見上げている。

 

 命を狙っているのが弟のブラグラ王子だったなんて、私にはグランデルにかける言葉が見つからなかった。


「最近、ブラグラの様子がおかしいとは感じていたが……。こんな事態は想定していなかった。巻き込んでしまい、すまない」


 グランデルは申し訳なさそうに、私達に謝った。


「私達のことは気にしないでください。それよりも、これからどうしますか?」


「我々が本気を出せば、兵士達を殲滅せんめつさせることは可能だろう。しかし、できれば同胞を傷つけるようなことはしたくない」


 おそらく、それもグランデルの性格を熟知しているブラグラの戦略の一つなのだろうが、そのことは口にしなかった。


「ラティリス」

 

「はい、私の出番のようですね」

 

 ルランドが声をかけてきた意図を、私は瞬時に理解する。


「グランデル、戦うことなくこの場を切り抜けられる方法があります」


「……そんな方法があるのか?」


 グランデルは半信半疑な様子だ。


「時間があまりないので、説明よりも先に呼び出しますね」


「呼び出す?」


「エアル、出て来て」


 私が名前を呼ぶと、つむじ風が目の前に集まり、中から小さな男の子の姿をした風の精霊シルフが姿を現した。


「ラティリス、なかなか呼んでくれないから寂しかったよ」


「ゴメンね、エアル。人目につくところでは呼び出せなかったから」


「まさか、風の精霊シルフを召喚できるのか?」


 グランデルが驚いている。

 まあ、人間が精霊と仲良くしているなんて、滅多にない話だろう。


「詳しい話をしている時間はありませんが、エアルの精霊魔法を使えば、この場を切り抜けられるはずです」


「確かに、風の精霊の力があれば、これくらいの状況は難なく切り抜けられる」


「エアル、私達に力を貸してくれる?」


「僕がラティの頼みを断ったことがあるかい?」


 エアルは笑顔でそう言った。


「ありがとう、エアル。それで、今の状況なんだけど」


「うん、分かってるよ。ダークエルフの兵士達に囲まれているから、見つからないようにこの小屋から抜け出したいんだよね」


「そうなの。できる?」


「そうだね。風魔法でみんなを飛べるようにしようと思うんだけど。問題はどこから抜け出すかだよね」


「それなら、屋根裏に小窓があるから、そこから外に出たらどうじゃ?」


 ワグリナが話に加わり、そう提案してきた。


「この小屋について詳しいんですね」


「ワシが作った小屋じゃからな」


 通りで詳しいはずだ。


「時間がないんじゃろう。さっそく屋根裏に行くぞい」


「はい、お願いします」


 こうして、私達はダークエルフの兵士達の目を盗みながら、エアルの風魔法で空中を飛んで、小屋から無事に抜け出した。

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