冒険の始まり(後編)
「それでは、ワシがドワーフの王国まで案内させてもらうぞ」
「よろしくお願いします」
ドワーフの王は先に王国に戻ったので、息子のワグリナが私達を道案内してくれることになった。
ドワーフなので年齢はよく分からないが、おそらく私達よりも年上だと思われる。
「そういえば、どうしてグランデルも一緒にドワーフの王国に行くのですか?」
「ん? まあ、ちょうど、ドワーフに私の魔剣を打ち直してもらいたいと思っていたからな」
「そうなんですね」
でも、皇太子なのに護衛はつけなくてもいいのかな?
グランデルが強いことは知ってるけど、皇太子ということを考えると護衛くらいはつけておいた方がよい気もするが。
「そろそろ乗ってくれ」
「あ、はい!」
ワグリナに
「では、出発するぞ!」
「あ、馬車の操縦もしてくれるんだ」
馬車の操縦も何故か従者ではなく、ワグリナがしてくれていた。
◇
「今日は、ここで泊まるすることにしよう」
「そうですね」
ワグリナの提案に私は頷いた。
森の中で日が暮れて来たので、私達は旅人が自由に使える小屋で一泊することにした。
野草に詳しいワグリナは、私と一緒にキノコ採集に、ルランドとグランデルは魚や肉を得るため、狩猟に行った。
「ワグリナは私達人間のことをどう思っているのですか?」
野草やキノコを集めながら、私はワグリナに率直に質問した。
「ん? ドワーフは、元々人間とも取引をしておるからな。人間に対して悪い印象はないが」
「そうですか。それならよかったです」
「ガッハッハ、ブラグラ王子のように亜人が全て人間を嫌っているわけではないぞ」
私が不安になっている様子を感じたのか、ワグリナは笑いながら、そう言ってくれた。
種族が違うというだけで、つい距離を置いてしまいそうになるが、よくよく考えると人間同士でも争いはある。
種族関係なく、元を辿れば個と個の争いが大きな争いへと発展していっている。
様々な種族と接しながら、私はそんなことを感じていた。
「できました」
私は集めた食材を調理してシチューを作り、
「では、召し上がってください」
馬車で移動している間はパンを頬張っていただけだったからか、私がそう言うと同時に男達は掻き込むようにシチューを食べ始めた。
「久しぶりにラティリスの作ってくれたシチューを食べたが、相変わらずおいしいな」
「ふふ、ありがとう」
ルランドは私の作るシチューが好きなのか、いつも褒めてくれる。
「確かにうまい」
「ふむ、人間の料理も悪くない」
「集めた食材が新鮮でよかったからですよ」
作ったシチューをおいしそうに食べているみんなの様子を見ながら、私は自然と笑顔になった。
◇
「ルランド、どうやら囲まれてるようだな」
「ああ、俺も気がついた」
夕食を食べ終え、しばらくくつろいでいると、突然、グランデルがルランドに話しかけた。
「どういうこと?」
話についていけずに私は二人に質問した。
「兵士達にこの小屋が囲まれている」
「この辺りには、まだ魔族はいないはずなんだが」
ルランドとグランデルはそう答えた。
「何者かは分からないけど、敵に囲まれているってことね」
二人の説明で、今起こっている事態を理解した。
同時に私の身体に緊張が走る。
「でも、魔族じゃないとしたら、私達を取り囲む兵士達って誰なの?」
「そうだな、少し探ってみるか。
グランデルが闇魔法の暗視を使って、闇夜に
「そ、そんな、まさか!?」
「……何があったんですか?」
グランデルの反応を見る限り、ただごとではない様子。
「この小屋を囲んでいるのはダークエルフの兵士達だ」
「ダークエルフの兵士達?」
皇太子であるグランデルを、どうして、ダークエルフの兵士達が取り囲んでいるの?
まだ、魔族とすら接触していないのに、こんな危機的状況に見舞われるなんて。
私はそんなことを考えながら、言い知れぬ不安を感じていた。
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