亜人会議(後編)
「ふん、人間の力なんか借りなくても、我々の力だけで何とかできる。二人には早々にお帰り願いたい」
ルランドと私は海を渡って、グランデル皇太子の王国の王宮へとたどり着いた。
そこで、亜人達の会議に私達も参加したのだが、会議が始まった直後、グランデル皇太子の弟のブラグラ第二王子に退席を言い渡された。
亜人会議には、ドワーフの王とリザードマンの王、ダークエルフの王の代理として王子が二人、そして私達二人の計六人が参加している。
「ブラグラ、もちろん、そうできれば好ましいが、我々だけでは魔族の侵略に対抗できていないのが現状だ。私は二人の意見も聞きたいと思っている」
「グランデル兄さんは、それによって生じた国民の苦難を解決するために、人間大陸を攻めたのではないのですか? それなのに逆に人間をこの会議に参加させたいなんて言い出して、兄さんはその二人に騙されているんですよ」
本人達を目の前にして、そこまで言えるとは。
私は逆に感心してしまった。
「お前が言いたいことも分からないでもないが、貧困と食糧問題が二人の協力によって解決してきているのも事実」
「そ、それは……」
事実を述べられ、ブラグラ王子が言葉に詰まる。
「魔族が亜人大陸で侵略地を広げていることは、私達にとっても他人事ではありません。人間大陸に侵攻して来る日も、そう遠くはないでしょう。ですから、魔族との戦いに私達も協力したいと考えたのです」
「確かに、そうだ」
「戦力は多いに越したことはないしな」
ドワーフの王とリザードマンの王は、私の意見に同意した。
「ですが……」
ブラグラ王子は、まだ納得していないようだ。
「今回、会議に参加させてもらった目的は、私達の意見を聞いてもらうためではなく、魔族の侵略の現状を知りたかったからです。その上で、何かできることがあれば、お手伝いしたいと思っています」
「そうか、そうであれば、我が王国に来るとよいぞ。なにせ、接近して来ている魔族達に一番近い王国であるからな」
ドワーフの王は、そう言って私の話に乗ってきた。
「そんなに接近して来ているのですか?」
「ガハハ、だから、こうしてこの会議にも参加しておる」
魔族という危機が緊迫している風には見えないが、それはこのドワーフの王の性格なのだろう。
「では、まずはドワーフの王国におもむき、魔族の侵略の現状を把握したいと思いますが、よろしいでしょうか?」
「おお、我々の王国で、思う存分、魔族達の様子を観察するがよい」
◇
「先ほどは、弟のブラグラが失礼なことを言ってしまい、申し訳ない」
グランデル皇太子が私達に頭を下げて謝っている。
「いえ、彼からすれば、私達はよそ者ですから、そう思われても仕方がありません。それよりも、私はドワーフの王の話が聞けてよかったと思っています」
「ああ、確かに最近、ドワーフ族との取引が
ドワーフは物作りが好きで、作った工芸品を亜人達と物々交換をして生活を成り立たせていた。
しかし、最近は道中でよく魔族や魔獣と出くわして、今までのような取引ができなくなってきているという話をドワーフの王からされた。
どちらにしても、ドワーフの王国に行ってみるという話でまとまったんだけど……
「俺は反対だ!」
ルランドは頑なにそれを反対している。
「ラティリスと一緒に海を渡ることも本当は気が進まなかったが、どうしてもと言うのでここまでは来た。それなのに、更に魔族の近くまで接近するなんて、正気の
「大丈夫ですよ。ルランドは私が使える魔法を知っているでしょ?」
「それは知っているが。それとこれとは話が別だ。俺はお前を危険な目に合わせたくない」
「ふふ、ルランドは心配性ですね。そんなに私のことが好きなんですか?」
「なっ?! 茶化さないでくれ、俺は真剣に……」
分かってる。
ルランドが私のことを、凄く心配してくれているということは。
「心配してくれていることは嬉しいです。でも、誰かが動き始めないと。いずれ人間大陸にも被害が及ぶ話ですから」
「だからといって、ラティリスがそれをしないといけない理由はないだろ」
「はい、それも分かっています。ですが、今回は私も動かないといけない。そんな感じがしているんです」
この物語には、私も参加しないと運命の歯車が狂う。
何故か、そんな気がしてならなかった。
「俺が力づくで止めると言ったら、どうする?」
「ルランドはそんなことをしないと、私は知っています」
「……その言い方はズルいぞ」
ルランドがジト目で私を睨んでいる。
「ふふ、ルランドとこんな風に揉めたのは、これで何回目ですかね?」
私達の道は今までも平坦な道ではなかった。
そう、きっとこれからも。
「はぁ、それもそうだな。ラティリスが頑固なのは俺が一番よく知っている。だが、無理は絶対にしないこと、これだけは守ってほしい」
「分かりました。ルランドを悲しませるようなことは絶対にしません」
ルランドは溜息をつきながら、私にそう誓わせた。
ルランド、心配させてゴメンね。
そんな私をいつも護ってくれて、ありがとう。
私は心の中で、ルランドに感謝の言葉を述べた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます