女神の試験3

「私はどの道も選択しないわ」


 私は選択しないことを選択した。


「どうして? 魔族がいる世界だよ。ラティもあの残酷な未来の世界を一緒に見たよね?」


「だって、私は魔族のことを、まだ何も知らないもの。あの世界は可能性の一つとしてはあり得る世界なのかもしれない。だけど、私は私が見ている世界で未来の選択をしていきたい」


「ふふ、ラティらしい答えだね。魔族と出会った後だったら、もしかしたら、違う答えだったのかもしれないけど……。ファレス様、試験はこのような結果になりましたよ」


「そのようですね」


 エアルがそう言うと、どこからともなく声が聞こえてきて、再び世界が一変した。



 気がつくと私達は、泉のある庭園のような場所に立っていた。


「エアルの期待通りでしたね」


 穏やかな声と共に、綺麗な女性が姿を現した。

 

 初めて会ったはずなのに、初めて会ったような気がしない。

 私は直感的に、この女性が女神ファレス様であることを悟った。


「あなたが女神ファレス様ですか?」


「はい、私はこの世界の女神、ファレスです」


 優しい表情。

 しかし、それと同時に瞳の奥には悲しみの感情が宿っているようにも感じた。


「あの試験はいったい何だったのでしょうか?」


 ファレス様に会えたということは試験に合格したということなのだろうが、何が試験だったのか私には分からなかった。 


「それでよいのです。試験の意図を知らないの状態で、魔族を滅ぼす選択をしないことが、ここにたどり着くことができる条件だったのですから」


「はい、それが私には分からないのです。どうして、それが答えだったのかと」


 私の性格が上手く試験と相応そうおうしたので、運よくあのような選択ができたが、多くの人々は魔族を悪としている。

 女神であるファレス様が魔族を滅ぼさないことの方が、逆に私は違和感を覚える。


「なるほど、そういうことですね。結論からお伝えしますと、それは魔族という種族が、元々は存在しない種族だったからです」


「存在しない種族?」


 失礼ながら、ファレス様の言っている意味が分からなかった。

 現に魔族は存在している。


「魔族の元の姿は亜人だったのです。ですから、私は女神として魔族を亜人に戻す責任があるのです」


「え?」


 魔族が、元は亜人だった?


 確かに、昔の文献で、そのようなことが書いてある本を読んだことはあったが、その時はただの創作だと思っていた。


 もしかして、私はとんでもない事実を知ってしまったのでは……


「でも、どうして、亜人が魔族に?」


 素朴な疑問。


「それは、私にも分かりません。ですから、その原因を探りたいと思っているのですが、私は女神という立場上、この世界に干渉することができません。ですから、ここまでたどり着いた者に、その使命をお願いしたいと思っています」


「……え、それって、もしかして。私?」


「はい、お願いできますでしょうか?」


 今まで亜人が魔族になった原因は、女神のファレス様ですら分からなかったということだよね……


「いえ、その使命は、さすがに荷が重いです」


「確かに責任を重く感じるとは思います。ですから、あなたに私の力の一部を授けたいと思います。あなたは、今、ダークエルフの王子に追われているのではありませんか?」


「よくご存じで……」


「私の力を使うことで、その者を元の状態に戻すことが可能です」


「うっ」


 痛いところを突いてくる。

 その力は、今最も必要としている力だ。


 グランデルのことを思うとブラグラ王子を力で倒すことはできない。

 しかし、永遠に逃げ続けるわけにも行かない。


「……分かりました。どこまで、探ることができるかは分かりませんが、その使命、受けさせてもらいます」


「ありがとうございます。あなたなら、そう言ってくれると思っていました」


 半分脅しみたいなものだよね。


 女神ファレス様の美しい笑顔を見ながら、私は心の中でそうボヤいてしまった。

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