ドワーフ王国(後編)

「はぁ、最高!」


 温泉に浸かりながら、私は思わずそう声を漏らした。


『ここの温泉には様々な効能があるので、旅の疲れも癒えるじゃろう』


 ワグリナがここの温泉について色々と解説してくれていたが、身体の芯まで温まることで、私は身も心も癒されていくのを感じていた。


「ハーリちゃんも、温泉が楽しいのかな?」


 ハーリちゃんは、今、私の頭の上に乗っている。


 温泉の温度は、ハーリちゃんにとっては熱いと思うんだけど、水で遊ぶことは好きなようだ。

 さっきまで、水遊びをしていた。


「よくよく考えると、とんでもないことに巻き込まれていってるのよね」


 久しぶりに、くつろげる時間を持てたことで、ようやく最近の出来事を整理する時間が持てた。


 最初は故郷を護るために始めたことが、女神ファレス様から使命を与えられたり、魔王二天王のデミストと関わることになったりと、亜人大陸に渡る前には考えられない状況になってしまっている。


 デミストの件については、ルランドにも相談ができないんだよね……


「はぁ」

 

 気がつくと私は溜息をついていた。

 温泉は最高なのだが、考えれば考えるほど気が重くなっていく。


「ま、でも、考えてばかりいても仕方がないし、すぐに何かができるわけでもないから、今の私にできることをやっていくだけよね」


 私は手の平の上に乗せたハーリに、そう語りかけた。


   ◇


「わぁ! きれーーい!!」


「確かに綺麗だな」


 今日はワグリナの案内で、洞窟の中で一番鉱石が美しく広がっている場所へと案内してもらった。


 ここ数日、ルランドは魔剣を使いこなす訓練をずっとしていたので、一緒にいられる時間をなかなか作れていなかった。

 綺麗な鉱石の景色を見られたこともよかったが、久しぶりにルランドと過ごせる時間を持てたことが何よりも嬉しかった。


「今抱えてる問題が解決したら、また街で買い物もしたいですね」


「ああ、そうだな」


「……ルランド?」


「ん、どうした?」


「私と一緒にいてもルランドは楽しくないの? さっきから返事が上の空になってるけど……」


 ルランドはずっと何か考え事をしているようだった。


「すまない。魔剣の扱いが上手くいっていなくてな、そのことを考えてしまっていた」


「魔剣の使い方なんて、魔法学校で習わないものね」


 グランデルからも、ルランドが魔剣の扱いに苦戦しているとは聞いていた。

 気分転換にもなると思って、鉱石を見に行こうと誘ったのだが、どうやら逆効果だったようだ。


「せっかく、ラティリスとこんな綺麗な景色を見に来ているんだからな。なるべく考えないように気をつけるよ」


「無理しなくても大丈夫ですよ。時間がない中、早く魔剣が扱えるようになりたいと焦っているルランドの気持ちは分かりますから。少し早いですが、そろそろ切り上げましょうか」


「すまない」


 今日のルランドは、私に何回も謝っている。

 普段のルランドからは考えられない振る舞いだった。


 力の差をデミストに見せつけられて、ルランドがこんなにも落ち込むとは思わなかった。


 魔王二天王のデミストがとてつもない力を持っているということを、人間の中では最強クラスの剣士であるルランドの様子を見て、私は強く実感していた。

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