ダークエルフの兄弟(前編)

「寂しくなるけど、ひとまずお別れね、ワグリナ」


「ガハハ、ワシも久しぶりに刺激的な日々を過ごせて楽しかったわい。もし、また何か困ったことがあった時には頼ってくれ、必ず力になる」


「ワグリナ!」


 ワグリナの心意気こころいきが嬉しくて、私は思わずワグリナを抱き締めた。


「じょ、嬢ちゃん?! ……嬢ちゃん達が、亜人大陸のためにしてくれようとしてくれていることを、ワシは決して忘れない。そのことだけは覚えておいてくれ」


「ありがとう、ワグリナ」


 ワグリナに心から感謝の気持ちを告げて、私達はドワーフ王国を後にした。



「男を抱き締めるのは、ワグリナで最後にしてくれよ」


「あ、さっきの気にしてたんだ」


「まだ結婚までしていないとはいえ、正直、少しムッとした」


「ふふ、どうしよっかな~」


 最近、ルランドにあまり相手をしてもらえていなかったので、関心を持ってくれたことが嬉しかった。

 なので、つい意地悪っぽく言ってしまった。


「ラティリス、俺は真面目に話を……」


「ゴメンなさい、冗談ですから。私が異性として意識をしているのは、ルランドだけですよ」


「うっ、ラティリス、それはズルいぞ……」


 私が急にそう告白したので、ルランドは顔を背けて照れていた。


 ◇


「久しぶりですね。グランデル兄さん」


 ダークエルフの王国に戻る途中、ブラグラ王子が兵を引き連れて私達を待ち構えていた。


「ブラグラ、正気を取り戻すんだ!」


「正気? これが本来の僕ですよ。だって、兄さんがいなくなれば、優秀な兄さんと比較され続けることはなくなるんだから」


 魔族の魔術によって、心を操られているのだろうが、問題はそれだけではなさそうだ。

 ファレス様も魔の力は負の心に呼応しやすいと言っていた。


「ブラグラ、今までそんなことを思っていたんだな……」


 ブラグラ王子の負の感情に触れて、グランデルが動揺している。


「グランデル、確かにブラグラ王子の心にはそういった傷があったかもしれません。ですが、それは誰にでもあり得ることです。魔族の魔術によって、このような事態になっているということは忘れないでくださいね」


「そうだな、そう仕向けた奴が一番悪い。ブラグラ、お前を倒して、俺はもう一度お前とじっくり話し合いたい」


「ハハ、グランデル兄さんのそういう上から目線なところが嫌いなんだよ!!」


 ブラグラ王子の怒りの声が合図となり、兄弟の剣と剣による戦いが始まった。


「私達は、他の兵士達を抑えましょう」


「ああ、任せろ」


「分かりましたわ」


 ルランドとエスカーネはそう返事をすると、圧倒的な力で兵士達を抑え込んでいった。

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