魔王三天王サビスル(後編)
何かないの?
この危機的状況から脱する方法。
サビスルと会話をしながらも、私は何か打開策がないかと頭をフル回転させていた。
危機的状況?
確かデミストからハーリを受け取る時に、そんな話をしていたような。
そう思い出して、肩に乗っているハーリの様子を見ると、何故か元気がない様子だ。
そうか、
「ん?」
そう自問自答していると、ある仮説が私の脳裏をよぎった。
既に危機的状況にあるにも関わらず、ハーリには何の動きもない。
これも、おそらく、この
「だったら!」
「フフ、最後の悪あがきでもするつもり?」
サビスルは私との実力差が分かっているのだろう。
勝利を確信し、余裕の笑みを浮かべている。
「
私が放った魔法によって、人も通れないほどの小さな穴が
「フフフ、何その弱い魔法? そんな小さな穴じゃ、あなた一人すら
確かに私の魔力では、こんなことくらいしかできない。
でも、私の仮説が正しければ、この穴で十分なはず。
私は心の中で私の仮説が間違っていないことを祈っていると、真上から黒い稲妻がハーリに落ちた。
「デ、デミスト?」
土煙の中から出て来たのはデミストだった。
「よく気がついたな」
いや、ハーリを通して危機を脱する何かが起こるとは思っていたが、まさかデミスト本人が来るとは思っていなかった。
「なっ、デミスト!? どうしてあなたがここに!!」
「もちろん、サビスル、お前を倒しに来た」
「どうして同じ魔族である私を……。倒すなら亜人や人間でしょ?」
「同族であったとしても、野放しにしておけない存在もいるということだ」
「ふーん、それが私ってわけね。……それなら、降参するわ。どうせ、今の私では勝ち目はないもの」
「フ、どうやら先の戦いで、魔力を随分と使ったようだな。なら、魔術で拘束するが、もし抵抗すれば分かっているな」
私の力量では分からなかったが、ルランドとエアルとの戦いで魔力を相当消耗していたようだ。
「私はそんなにバカではないわ」
サビスルはそう言って、デミストの魔術でおとなしく拘束された。
「あーあ、残念、私はけっこうデミストのこと気にいっていたのに」
「それはどうも」
デミストは素っ気なく返答した。
「あと、あなた」
「え、私?」
話しかけられるとは思わなかった。
「あなたを見ていると、昔の私を見ているようで、とてもイライラしたわ。世界に絶望して、わたしのようにはならないよう、せいぜい頑張ってね」
「ご忠告どうも」
そんな風に思われていたなんて思いもよらなかった。
一体どんな絶望を味わったらあんな風になってしまうのか……
私は思わず身震いした。
「ラティリス、お前のお陰で心配事の一つを解決することができた。感謝する」
「あ、いえ、こちらこそ、助けてくれて、ありがとうございます」
正直、デミストがいなかったら、私達は全滅していた。
ただ、それはそれとして……
「ハーリを通して、全部見ていたんですか?」
「そういえば、魔獣に名前をつけていたな。ああ、ラティリスの予想通り、そのハーリと俺は魔力で繋がっている」
「ということは、温泉で私の裸も見たってことですよね!!」
私はデミストに問い詰めた。
「……見るには見たが、裸を見られたくらいで、何故そんなに怒っているのだ?」
これも魔族との価値観の違いなの?!
私は恥ずかしくて仕方がないのに。
「今後は絶対にハーリとは一緒にお風呂に入りません!!」
「そうか、そんなに気になるのであれば、その時は見ないようにしよう」
「もう!」
何も分かっていない様子のデミストに、私は溜息をついた。
まあ、でも、こんなことで怒りをあらわにできるのも命あってのこと。
私は改めて、デミストが助けに来てくれたことに感謝した。
「風の精霊エアルよ。少しは回復したようだな。俺はそろそろこの場を去らせてもらうが、後のことは頼んだぞ」
「言われなくても、そうするよ」
エアルは飛べるようになるまで、いつの間にか自己回復していた。
こうして、魔王三天王の一人サビスルとの戦いは、終わってみれば
ルランド、エアル、グランデルを治癒した後、私達はダークエルフの王国に戻り、グランデルは王との再会を無事に果たした。
これで、しばらくは平穏が訪れる。
少なくとも、今日まではそう思っていた。
次の日、部屋から出てこないルランドの部屋を訪れると、そこには婚約指輪と一緒に手紙が置かれていた。
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