第23話 うごめく闇

「はっ? 見当ってお前……、今日はじめて会った刺客の見当がつくの? え?」

 あっさりと告げられたゼノンのセリフに、目を大きく見開いたジョンが戸惑う。

「あくまでおおよそ、ですがね。」

 ジョンの戸惑いなど気にも留めないゼノンはちらりと牢の中の男たちへ視線をやった。

 ゼノンの冷ややかなまなざしをむけられた男たちはそんなバカなという思いと、あの天才軍師ならもしかしてという思いが入り交じってごくりと息を飲む。


「一番右奥の銀髪のあなたと、その手前の赤髪のあなた。それから赤髪の方の隣りの茶髪のあなた。……あぁ、あとは最前列中央の金髪のあなたと、同じく最前列の左端の茶髪のあなたもですね?」


 おもむろにゼノンは一人ずつ牢の中の男たちを指差していく。

 選ばれた男たちと、選ばれなかった男たち。

 その違いは、選ばれなかった男たちにはわからなかった。ーーだが。


「バカな?! なぜわかった!?」

 不幸なことに、ゼノンに選ばれた男たちのほうには、自分たちが選ばれてしまった理由がわかった。わかってしまった。

 ある刺客は顔を怒りに染めてわめきだし、ある刺客は血の気のひいた真っ青な顔になってぶるぶると震え上がった。


「? なんだこいつら? なんでこんなに慌ててるんだよ。おーい、ゼノン、俺にもわかるように教えてくんね?」

 刺客たちの反応が理解できないのはジョンも同じだった。

 しきりに首をかしげるジョンのようすにクスクスと笑いながらゼノンは頷く。

「かまいませんよ。そちらの皆さんも、気になって仕方ないようですし。」

「い、いや俺たちは別に……!」

 盗み聞きというわけではないが、話のなり行きが気になっていたのもたしかだったため、もごもごと言い訳を口にするしかない男たちにゼノンはあでやかに微笑んで、


「ーー先ほど私が示した五人の方々は、ナルンからのお客様ですよ。」


 とんでもない事実をぶつけてきた。



 ーーナルン。

 

 ノヴァスリア帝国の建国以前に、このあたりで幅を利かせていた大国であり、大陸を追われ西の小さな島国に押し込められた後もなおノヴァスリア帝国と数百年にわたって敵対し続ける、不倶戴天ふぐたいてんの敵国である。


 ゼノンの口にした単語に、ざっと残りの男たちが一斉にナルンの刺客を取り囲む。

 いきなり態度の変わった他の刺客たちに、ナルンからの刺客は目を見張った。

「おい、どういうつもりだ貴様ら?!」

「自分たちもおなじ刺客だろうが!?」

 しかしナルンからの刺客を囲んだ八人の男たちは、ジョンたちに武器を取り上げられている状態にもかかわらず戦うつもりでいた。

「ふざけるな! ナルンの賊とおなじにされてたまるか!!」

「この蛮族め! どうやって帝国に入った!?」


 ナルン人が蛮族と呼ばれるのは、ノヴァスリア帝国やロメルツェの人間とちがい、精霊の加護を得ず、おまけにいたずら好きの妖精を信仰しているためだ。

 信仰のちがいといえばそれまでだが、妖精に捧げる生けにえを他国からさらってまかなうため、周辺国から嫌われまくっていたのだ。


「! 略奪者の分際で!!」

 憎々しげにナルンからの刺客が吐き捨てるように、ナルンの跡地に建国されたのがノヴァスリア帝国である。

 正しくは、ナルンを追い出してノヴァスリア帝国がその跡地に建国したのだ。

「忌々しい盗人どもに罰を与えてやる!!」

 一人のナルンからの刺客がそう叫び、右手を高く掲げると、牢の中がまばゆく光った。

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天才(災)軍師ゼノンの完璧なる花婿計画 満天星 @noir00

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