第12話 予定外の四回戦①

「ふふっ……! なんだかんだで順調じゃない、ラウラ?」

 休憩きゅうけいのためにラウラを伴って廊下に出てきたロゼが振り向いて尋ねると、ラウラもまた嬉しそうな笑みを浮かべて頷く。

「はい! さすがは姫様です! 婚約者候補の皆さま、びっくりしてましたね!」

 満面の笑みを浮かべたラウラの返事に、ロゼの機嫌も上向く。自然と、廊下を進む足取りも軽くなった。

「やっぱりゼノンの力を借りて正解だったわ、ねーー、っ!」

 どん、と曲がり角で走ってきた人影に勢いよくぶつかってしまい、衝撃しょうげきでよろめいたロゼをラウラがあわてて支える。

「ちょっと! 姫様に何てことするんですか!?」

 むっとした表情でラウラがにらみつける先には、

「あああ……! よりにもよってロゼ様にぶつかるなんて……! 最悪だ……ぼぼぼボクはもう死ぬんだっ! ミ、ミストリア伯爵にこここ殺されちゃう……! た、助けてお父様ぁ……!!」

 滝のように流れ落ちる涙を拭うことなく、自分を守ろうとするかのように自らの体をきつく抱きしめてーー狼に出会った野うさぎのようにガクガクブルブルと小刻みに体を震わせている、ロゼの従兄がいた。

「ロベルト、どうしてここにいるの? 今日はお客様をお招きしてお茶会があるって言ったでしょう?」

 このロベルト、ロゼの叔父であるミストリア子爵ユーインの息子だが、結婚自体はユーインのほうがロゼの父ユベールより先だったためにロゼよりも年上なのだ。

「ちちち、違うよ! あ、遊んでほしいとかじゃなくって、……その、ボクもお茶会に行けってお父様が。」

 ……年上としての威厳はちっともないが。

 あわてたようにぶんぶんと両手を振るロベルトに、我慢できなかったラウラが叫ぶ。

「はぁ? あのどら息子どもをうちの姫様に紹介しただけでは飽きたらず、自分の息子まで婿候補にねじこんでくるとか、どんだけ強欲なんですかあのタヌキじじい!!」

 ラウラは大きな商家の娘だ。数年前、ミストリア子爵家に呼ばれて夫と共に商売にきたラウラの母を見初めたユーインが無理やり愛人にしようとしたことがあった。

 その件はロゼが邪魔をしたせいでなくなったのだが、それ以来ラウラはユーインを毛嫌いしている。そのため、息子のロベルトにもラウラの当たりはきつい。

「ロベルトに招待状は出していないはずだけど?」

 とはいえ呼ばれていないお茶会に押しかけるのはあまりに無作法なので、ラウラほどではないがロゼも怒ってはいた。

 ロゼとラウラの二人に責められて、どうしたらいいかわからないというようにロベルトは視線をさ迷わせてうつむく。

「お、お、お客様を紹介したのはお父様だから、ロゼ様がうまくやれているか、自分の代わりにようすを見に行けって言われて……。」

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