第11話 三回戦②

 ふとエドワードの言葉に違和感を覚えたロゼは口元に手をあてて咳払いする。

「コホン……、この家の調度品などに対する感性は、夫になる方によって違うと思いますよ。ギャリッツ侯爵子息様は大げさに褒めすぎです。」

 実際、アランは愛人たちと一緒に「貧乏くさい」とバカにしていた。まあ、公爵家からすれば、伯爵家の内装など見劣りして当然なのだろう。

(でも、それは侯爵家でも同じことじゃない?)

 今はエドワードが売り払ったせいで何もないのだとしても、元々は伯爵家よりずっと豪華な家財道具がそろっていたはず。

(最初は、売り払うために目星をつけているのかと思ったけど、そもそも婿入りできるかどうかもわからないのにそんなことをしても無駄よね?)

 おまけにこの家のものを売ったところで、侯爵家のものほどいい値段はつかないだろう。……ロゼとしては不本意な話だが。

「えぇー、大げさなんかじゃないですよ~。僕はとっても素敵だと思います、この家も、ロゼ様も!」

 そして一番の違和感はロゼをやたらともちあげることだ。

 ばさり、と広げた扇子で口元を隠し、ロゼは首をかしげた。

「あらあら、お上手ですね? 私の髪や目の色について、ギャリッツ侯爵子息様はお気になさらないのですか?」

 酒以外に興味がなかったのか、カインはちっともロゼの容姿についてふれなかったが、この国の貴族社会ではアランや愛人たちの反応のほうが一般的だ。

「えぇ? 髪や目ですか? うぅーん、……たしかに珍しいなぁとは思うけど、それよりもロゼ様自身が美人だから、そっちに視線がいっちゃうかなぁ。」

 考えこむように頭に手をあてて小首をかしげるエドワードの返事に、さすがに無理があるとロゼは沈黙した。

(初めて会った人はみんな、私の髪に視線がいってたわよ。……あなたもね、侯爵子息様。)

 瞳はともかく、ロゼの髪は長い。否応なく視界に飛び込んでくるはず。

 ゼノンやラウラでさえ、初めて会ったときはロゼの髪をしげしげと見つめていたのだ。……彼らはアランと違って何も言わなかっただけで。

「ーーギャリッツ侯爵子息様。」

 背筋を伸ばして息を吸い込んでからロゼが呼びかけると、何かを察したのか、エドワードもまたピンと背筋を伸ばす。

「は、はいっ?!」

 何を言われるのかと緊張した面持ちのエドワードに、ロゼはゆっくりと微笑んだ。

「ご無理は、なさらないで下さい。本心ではないのに、わざわざ褒めていただかなくて結構です。」

「……えっ?」

 きょとんと目を見開くエドワードに、ロゼは首を横にふる。

「本当に素敵だと思ったものだけにそう言わないと、言葉の重みがなくなりますよ?」

 さすがにあそこまで大げさに褒められつづければ、本心でないことくらいロゼにもわかる。

「えっ、ちが、僕は」

 驚いたように目を丸くしたエドワードはしかし、ぱくぱくと口を動かすだけで、その先が言葉うまくになっていない。

 すがるようなまなざしをむけてくるエドワードに、ロゼは丁寧に頭を下げた。

「心にもない褒め言葉を言ってくるような方を婿にするつもりはありませんので。」

 そう、皿もカップもロゼ自身も、何でもかんでもエドワードが褒めていたのは品定めではない。

 ロゼの婿になるためだ。おそらく、ギャンブルに遣いすぎて実家の資金繰りが苦しいのだろう。それであんなにもロゼを誉めちぎっていたのだ。

「では、失礼します。」

 もう一度深々とお辞儀して、ロゼはエドワードに背を向けた。

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