第10話 三回戦①

「わー、キレイなお皿ですねぇ。このバラ、すっごくよく描けてますね。あ、こっちのちっちゃなバラがいっぱい描かれてるカップもかわいいなあ~。」

 にこにこにこ。ロゼの前で無邪気な少女のように微笑む少年は、ギャリッツ侯爵家の三男、エドワードだ。ふわふわの栗色の髪も、ぱっちりとした空色の瞳も、エドワードの愛らしい容姿を引き立てている。

「ありがとうございます、私もこの皿は特に気に入っているんです。」

 あやうく、エドワードにつられて微笑みそうになったロゼは、いけないいけないとあわてて首を横にふった。

(ギャリッツ侯爵家の三男、エドワード……この可愛らしい見た目とは裏腹に、大のギャンブル狂いで有名なのよね。)

 ギャンブルの掛け金が足りなくなったら、家の美術品はおろか、母親のドレスや装飾品、父親や兄のコレクションなど家族の私物にまで手を出す。それでも足りなければ、まさに今、エドワードが褒めた皿やカップなど、食器まで売って掛け金に替えるのだ。

 おかげで今、ギャリッツ侯爵家は荒れているらしい。……当然だ。

(あの叔父の紹介だからある程度の覚悟はしていたけど……まともな婚約者候補がいない。)

 ミストリア子爵ユーインは、父親とは全く似ていないロゼの見た目を嫌っている。このくらいの嫌がらせなど、何とも思わずやっているだろう。

 心の中でため息をつくロゼの前には、にこにこと嬉しそうな笑みを浮かべたエドワードがいる。

「わぁ、趣味が合いますね、ロゼ様! えへへ、僕もこのお皿、すっごく好きになっちゃいました。」

 おそろいですね、と照れたような笑みをこちらにむけて小首をかしげるエドワード。その仕草も見た目とあいまって、小動物のように愛らしいのだが。

「ロゼ様のお婿さんになれる人は幸せですよねぇ……。こんなに美人なお嫁さんと一緒に、趣味のいいお家で暮らせるんですから。」

 ……そこはかとなく、財産を品定めされている気分になってしまう。

「あーあ、羨ましいなぁ……。」

 わざとらしく呟いてみせるエドワードを婿にした場合、家にある売れそうなものは全て売りつくされてギャンブルの掛け金にされてしまいそうだ。

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