第13話 予定外の四回戦②
「だったら、あなたの父親がお茶会のようすを見にくればいいでしょ!? 大体ねぇ、ことあるごとにあなたの面倒ばっかり姫様に押しつけてきて……あーもう、ムカつくあのタヌキじじい!!」
長い金髪をふるふると身体の震えにあわせてゆらし、ただでさえ赤い瞳をウサギのようにうるませて怯えるロベルトは、見る人によっては庇護欲をそそる。
……のだが、あいにくとラウラには彼女の苛立ちをよりいっそう刺激したらしい。
『おお兄上! 今日こそは兄上にふさわしい縁談を用意して来ましたぞ!! ああ、ロベルト、お前はあっちでロゼと遊んでおいで。』
『ユーイン、何度も言ったがいらん気遣いだ。』
ユーインは頼まれてもいないのにユベールに縁談を持ってきては、その間にロベルトをロゼに近づけていた。当然、再婚する気のないユベールにすげなくあしらわれ、しぶしぶロベルトを連れて帰っては一月と経たないうちにまた新しい縁談を持ってやってくる。
そのくりかえしだ。
「ら、ラウラ……そんな言い方しなくてもいいじゃないか……。」
ラウラの態度にしょんぼりとロベルトは肩を落とす。ふん、とラウラは顔を背けた。
「何よ、まるでこっちが意地悪みたいに言わないでくれる? あなただって、自分の父親がふざけたこと言ってるってわかってるんでしょ? 姫様は、伯爵家のご令嬢なのよ?」
ミストリア子爵ユーインの態度は明らかにロゼを侮ったものだ。
しかも、親戚だから許されると思っているところがなお悪質である。
ラウラの指摘にロベルトはうつむき、きつく唇を噛みしめる。
「で、でも……! お、お父様に逆らったらボクは生きていけない! だ、だ、だから、頼むよロゼ! おお、お茶会にボクも参加させてほしいんだ。お願いだから……!!」
おもむろに顔をあげたロベルトはまっすぐにロゼを見つめて叫んだ。そのまま勢いよくがばりと頭を下げる。
(必死ね……。)
ミストリア子爵家において、ユーインの意向は絶対だ。ロベルトは常に、ユーインの笑い声ひとつ、ため息ひとつに怯えながら生きてきた。
「お願いだから! お願い、お願いします!!」
ロベルトにとって、ユーインの命令を果たせないということはすなわち、ミストリア子爵家での自分の居場所を、存在意義を失うということだ。
ぶるぶると震えながらこちらを伺うように見てくるロベルトのようすに、ロゼはため息をつき、やれやれと肩をすくめた。
「……仕方ないから、今回だけね。」
その言葉に、ロベルトとラウラはそれぞれ真逆の反応をした。
「あ、ありがとう、ロゼ……!」
嬉しそうに笑みをうかべ、ほっと胸を撫で下ろすロベルトのとなりでは、前のめりになって叫ぶラウラの姿が。
「ひ、姫様! いくら従兄だからって、ロベルトに甘すぎます! 何なら、今からでも私が追い出してきますから、」
納得がいかないようすで言い募るラウラを、ぴんと人差し指を立ててロゼが止める。
「ーーただし、あなたのお願いを聞くのもこれで最後よ。だからねロベルト、私があなたを、助けるのは今だけ。」
「えっ?!」
まるで縁切り宣言にもとれるロゼのセリフにロベルトは目に見えて動揺する。困惑して目を瞬かせるロベルトの鼻先にぴしりと指を突きつけ、ロゼは微笑む。
「叔父様に言われるまま生きて後悔したって遅いわよ? 後はロベルトが自分で考えなさい。」
ただでさえ、ユーインの素行が悪いせいでミストリア子爵家の評判は最悪だ。それでも何とか貴族社会でやっていけているのは、ミストリア伯爵ユベールの人望が、その弟であるユーインを守っているから。
「え? ねえ、ロゼ、それはどういう意味? まさかボクたちを見捨てるの?」
今にも泣き出しそうに表情を歪めるロベルトに、あえてロゼは意地悪な返事をする。
「さあ。でも、私の夫になる人はどうかしら? お父様のようにミストリア子爵家と関わるとは思えないわ。」
ユーインの横暴にただおとなしく従っているだけなら、いずれロベルトも……いや、ミストリア子爵家自体が没落するだろう。
さぁっと顔を青ざめさせるロベルトに、ロゼはとびきりの笑顔をむけた。
「……さ、お茶会に行きましょう?」
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