第6話
「さて、まずは婚約者候補の皆様に一通り会える茶会でも催しますか。」
ロゼの命令を受けた翌日、いやにきらきらしい笑顔を浮かべたゼノンは、開口一番そう告げた。
「お茶会ね……しかも候補者全員と一度に会うの……。」
ゼノンの提案にロゼがうなだれたのも無理はない。明らかに難あり物件ばかり集めたお茶会など、もはや苦行以外の何物でもない。
(まあ、そのぶん、一人ひとりにとられる時間は少なくてすむんでょうけど。)
問題は、どれだけロゼの精神力が削られるかだ。お茶会の終わりまでもつだろうか。
「いつ、開催されるんですか?」
大規模なお茶会となれば、使用人たちも準備で忙しくなる。早めに予定を知りたいとラウラが尋ねると、ゼノンはいい笑顔でキッパリ言った。
「え? もちろん今日です。」
「「は……??」」
聞き間違いかとロゼはラウラと目を見交わした。いや、むしろ聞き間違いであってほしい。
だがそんなロゼの願いもむなしく、ゼノンはもう一度告げた。
「だから、今日です。」
一拍遅れて、ようやく事態を理解したラウラが悲鳴のように叫びをあげた。
「え? え? 嘘ですよね!? お願いですから嘘って言ってくださいゼノン様!!」
信じたくないラウラの気持ちはよくわかる。お茶会というのは、そんなにすぐ準備できるものではないのだから。
「お出しする料理やお茶菓子の用意なんて何もできてないんですよ!?」
提供する料理や茶菓子の質は、そのままミストリア伯爵家の評価につながる。急ごしらえでお粗末なものを出せば、今まで以上に他の貴族たちから反感を買うことになるだろう。
「ラウラ……、無駄よ。」
そのままゼノンの首元をつかんで揺さぶりだしたたくましい侍女を、ゆっくりと首を横にふってロゼは止めた。
「ですが姫様!!」
納得のいかないようすで反論するラウラに、ロゼは乾いた笑みを浮かべた。
「あなたもわかっているでしょう? これが天災軍師よ。」
やはりゼノンに婚約者候補たちとの破談を頼まなくてよかった。仲立ちを頼んでこれなら、破談の場合はミストリア伯爵家まで滅亡させられかねない。
「おや、降ってきましたね。」
こちらの動揺などお構い無しのゼノンは、突然に降りだした雨のほうが気になるらしい。肩をすくめたロゼは、つられるようにして空を見上げた。
「本当、さっきまでは晴れてたのに。」
垂れ込める雨雲はまるでロゼの心情のように暗い。だがゼノンは気落ちしたふうもなく、こちらにむけてウィンクした。
「まあ、雨のなかのお茶会というのも風情があっていいでしょう?」
「えぇ……?」
明らかにあきれているラウラが首をかしげたのと、一筋の雷鳴が空を走ったのは同時だった。
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