第19話 茶会の行方②

 ゼノンに促されたロベルトは、おそるおそるといったようすで口を開いた。

「うぅ……。お、怒らないで聞いてくださいね? あの、そのう……アラン様と一緒にいたラティーシャ家の侍女さんたち、さ、さ、先に帰るって、しし使用人だと思ったみたいでボクに言ってましたよ。」

 おどおどした態度のロベルトは、よく他家から来た者たちに使用人に間違えられていた。だが、問題はそこではない。

「侍女? そんなのいましたっけ?」

 んん? と首をかしげたラウラの疑問に答えたのはゼノンだ。

「ああ、あのラティーシャ公爵子息が連れ歩いていた女性たちですよ。そういう名目で連れてきたんですよね?」

 にこやかな、ただし冷気を感じる笑みでゼノンが確認すると、アランは力なく頷いた。

「ああ。そうでも言わないとあいつらを連れてこれなかったからな。というか、侍女という身分でもないとあいつらの外聞が悪い。」

 アランの言い分に、無理がある、と若干ひきつった声音でエドワードが呟く。

「えぇ……。あれ、どう見ても愛人だったじゃん。侍女って。」

 うんうんと頷いたのはカインだ。

「私もあれは愛人かと。」

「皆さん感想は一緒だったんですね~。」

 彼らの指摘に、胸の前で腕を組んだラウラが当然と言わんばかりに大きく頷く。

 そんなラウラに、こほん、と口元に手を当てたロゼが咳払いをする。

「ラウラ? 話がずれているわ。それでロベルト、その侍女の方たちはそのまま帰ってしまったの? ラティーシャ公爵子息をこの場に残したまま?」

 いつから侍女はそんなに自由な仕事になったのか。そんなことをすれば、アランがどれほど怒り狂うかわかりそうなものなのに、なぜ彼女たちはアランに一言も告げずに自分たちだけで帰ってしまったのだろう。

「えっ、えっと、じ、侍従を残しとくからって言ってたよ。ぼ、ボクは会ってないから侍従さんがどんな人かはわかんないけど。」

 これに首をかしげたのはアランのほうだ。

「侍従だと? 誰だそれは。俺はそんなやつ連れてきてないぞ? というか、俺が男なんぞ連れてくるわけない。」

 きょとんとした表情で戸惑うアランと同じく、ロゼもその侍従に心当たりがない。事前に伝えられた連れていく人員のなかに入っていなかったので。

 混乱しているロゼをちらりと見やったゼノンは、短く言った。

「ジョン。」

 名を呼ばれたジョンはへらりとした笑みを浮かべて手を挙げる。

「お、とうとう俺の番か? 実はさ、俺、そいつのこと見たんだよ。」

 ジョンはこのお茶会のために、街と屋敷の警備にあたっていた。そのジョンがラティーシャ公爵家の侍従を見たと告げると、そのまま話し出す。

「門のところで何かもめてるな、と思ったらラティーシャ公爵家の侍従だって名乗るやつが中に入れろって騒いでたんだわ。坊っちゃんが忘れ物したからとか何とか言ってさ。」

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