第18話 茶会の行方①

 たしかにラウラが指摘したとおり、お茶会の開始当初はあれほどべったりとアランにはりついていた美女たちの姿がいつの間にか見えなくなっていた。

「ん? それどころじゃなかったからあいつらのことを忘れていたな。言われてみれば、たしかにいない。あいつら、この俺様をおいてどこへ行ったんだ?!」

 信じられないとばかりに拳を握りしめて憤慨ふんがいするアランに、ゼノンは呆れたように、肩をすくめる。

「おや? ご自分で連れてきておいて、それはあまりに失礼なのでは? ……まあ、もともと頭が残念なようですが。」

 うんうんとうなずく他の参加者やロゼたちにアランはうろたえたように両手を振り回す。

「わ、忘れたんじゃない!! この女が休憩に出ていった後にあいつらも少し席を外すと言ったんだ!」

 アランいわく、美女たちはロゼの後を追うように席を立ったという。

「すぐに帰ってくると言ってたし、この女と一緒にいると思ってたんだ! だいたい、あんなに俺様ばっかり狙われたんだぞ?! あいつらのことまで気にしてられるわけない!!」

 あれほどしつこく犯人に狙われては、自分が連れてきた女性たちに気が回らなかったらしい。ラウラに問われてはじめて気づいたというようにアランはぐるりと周囲を見回す。

「おい! どこにいる?! さっさと出てこい!! とっとと帰るぞ! 早くしろ!!」

 自分が呼べば美女たちはすぐ姿を現すといわんばかりに声を張り上げる。

 だが、返ってきたのはしん、とした耳に痛いほどの静寂せいじゃくだった。それを破ったのは、場違いなほどに明るいエドワードの笑い声だった。

「あっはは! 何あれ! すっごい笑えるんだけど!」

 こらえきれないというように笑みをこぼれさせるエドワードの肩をそっとカインが叩く。

「ギャリッツ侯爵子息、笑ってはいけない。彼は真剣なんだ。」

「おい! そこ! 笑うな! 俺様は何もおかしなことはしてないだろうが?!」

 なぜ自分が笑われているのかわからなかったアランは一瞬いっしゅんぽかんと口を開いたが、すぐに今まで以上の大声を出した。

「え、えぇっと、……こ、ここういう時は何て言うんだっけ……ご、ご、ご愁傷さま?」

 それを見ていたロベルトはもじもじと指を動かしながら何とか言葉をひねり出す。だがそれはアランの望んでいたセリフではなかったらしい。

あわれむなああああぁ!!」

 がっくりと膝から崩れ落ちたアランも、ようやく自分が美女たちに置いていかれたらしいと気づいたようだ。

「ふんっ! ざまあないですね!」

 腕組みをしてアランを見下ろしたラウラはあからさまに勝ち誇った笑みを見せた。……相当アランはラウラに嫌われたらしい。

「ぐぐぐ……! おい、無礼だぞ!」

 ラウラに見下ろされながらそれでも希望を捨てきれなかったアランは、ふと何かに気づいたように勢いよく顔をあげる。

「いや、もしかしたらあいつらもあの男に何かされたのかも……!」

 そして自分の助けを待っているのかもしれない、などとほざくアランに優しくゼノンが微笑んだ。

「いえいえ、残念ながら皆さますでにお帰りですよ。……そうですよね、ジョン、ロベルト様?」

 

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