第17話 真打ち登場②
「ご無事で何よりです、私の姫君。」
男の姿が見えなくなり、ほっと
まるで物語のなかの姫君を悪者から救い出す騎士のごときその態度に、ロゼは口を開く。
「ゼノン、」
しかし、ゼノンがロゼの呼びかけに答えることはなかった。
「髪の一本でもあの男に傷つけられてはいないかと心配しておりました。あんな野蛮な刺客などを叩くなんて……姫君の繊細なお手が傷ついたらどうするんです?」
握りしめたロゼの手を指先から甲までペタペタと撫でまわし、咎めるようなまなざしをむけてくるゼノンに、ロゼは素直に謝った。……もちろん、握りしめるゼノンの手から自らの手を引き抜きながら。
「ごめんなさい……でも、あのままだと怪我をすると思ったの。」
あの場をおさめることができたのは、犯人に意識されていないロゼたちだけだったし、招いた側としてロゼにはその責任もあった。
ロゼの返事にやれやれとゼノンは肩をすくめ、招待客たちに
「全く……姫君はお優しすぎるのではありませんか?」
「わかりますっ! すっごく、よくわかりますっ!! ……なんで姫様があんなヤツのために危ないことを……!!」
力強くラウラがこくこくと頷いているのは、彼らに対して色々と思うことがありすぎるのだろう。……特に、アランとか。
大分、本音が口からこぼれてしまっている。
「はんっ、その女に呼ばれてここに来たせいで災難に遭ったんだ。そいつが命を張って俺様を守るのは当然だろう!!」
ようやく安全だとほっとしたのか、ふてぶてしさを取り戻したアランがバカにしたように
「姫様に助けてもらっておいて何バカなこと言ってるんです? あの犯人、どう見てもラティーシャ公爵子息のことだけを狙ってましたよね?」
「ら、ラウラ……。」
あまりの態度に腹に据えかねたらしいラウラが、アランに対し一切の遠慮をかなぐり捨てた。
「そ、そんなわけないだろう!? おい、お前たちもこの頭の悪い侍女に何とか言ってやれ!!」
ぐるぐると周囲を見回してアランは自分の意見に賛成する者を探すが、他の参加者には呆れたように首を横に振られるばかり。
「……いや、あれは……。」
眉根を寄せて気まずそうに口ごもるカインの肩を叩き、エドワードはカインの耳元に唇を寄せる。
「カイン様、はっきり言ってあげたほうがいいんじゃないですか? あれってどう見てもアラン様を狙ってたじゃないですか。僕たちはついでって感じで。ね、ロベルト君もそう思ったでしょ?」
急に意見を求められたロベルトはびくりと大きく肩を跳ねさせ、こくりと小さく頷いた。
「う、うう、うん。……は、はじめは手当たり次第って感じだったけど、すぐ、らら、ラティーシャ公爵子息様を狙ってるって感じだった……よ、ね?」
額に青筋をたてたアランが怒鳴り声をあげて、その会話を
「おい、聞こえてるぞ!! ……ちっ、とにかくだ! あいつが俺様を狙っていたとしても、この女が俺様を守るのは当然だ! 何といっても将来の旦那様なんだからな!!」
……だれが? だれの?
思いっきり理解できない発言にロゼの頭が真っ白になる。何か言わなくてはとロゼが口を開くより先に、ゼノンがにっこりと微笑んだ。
「おやおや、いけませんねぇ。ラティーシャ公爵子息様、貴方はあくまで候補の一人ですよ? ……候補の、ね。」
微笑んでいるはずなのに恐怖すら与えるゼノンの表情に、ぴくりとアランの口もとがひきつる。そこに追い打ちをかけるかのように、ラウラが
「はぁ?! そんな理屈なら自分の愛人に守ってもらえばいいんじゃないですか!? だいたい、あの女たちどこ行ったんですか? さっきから全然見当たらないんだけど、もしかして見捨てられたんじゃないです?!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます