第8話 初戦②

「な、な、……! 何だと貴様!?」

 自分が何を言われたのかわからないとばかりにアランは目を見開き、わなわなとその巨体を震わせた。おそらく、今までこんな扱いを受けたことがないのだろう。

「言葉のままですが? もしかして、お耳が遠くていらっしゃるのかしら? それとも頭のほうが悪いの?」

 にっこりと微笑み、わざとらしくロゼは首をかしげる。意地の悪い言い方なのはさっきのお返しだ。

「こ、こ、この俺をバカにするのか!?」

 わかりやすくぎゃんぎゃんと吠えるアランのようすはむしろ滑稽なほど。

「馬鹿に? 私は本当のことを伝えただけでしょう?」

「はぁ!? 伯爵家ごときが、公爵家の俺に逆らえると思ってるのか!?」

 ロゼの態度が気に入らないのだろう、アランは大声で脅すように叫んだ。地位を笠に着るような発言に、思わずロゼは小さく笑う。

「あらあら……まさかとは思うけど、候補が自分だけだとでも思ったの?」

 だとすれば勘違い野郎なことこの上ない。

 口元を手で覆ってクスクスと笑うロゼのようすに、ようやく事態を理解したらしくアランが周囲を見渡す。

「ま、さか、お前……この茶会に、婚約者候補を全員、呼びつけたのか?!」

 何か恐ろしいものを見るようなまなざしでこちらを睨みつけてくるアランに、ロゼは確信した。勝った……、と。このようすなら、まかり間違ってもロゼと結婚したいとは言い出さないだろう。

「なんて非常識な女なんだ……!! 複数の男を侍らそうなんて、はしたないとは思わないのか?!」

 握りしめた拳をぷるぷると震わせ、血を吐く勢いで叫ぶアランに、ロゼだけでなく、傍にいた愛人たちも沈黙した。その言葉、そっくりそのままお返ししたい。

「それをあなたに言われるとは思わなかったわ。」

 冷めた声音でそれだけ告げると、ロゼはアランに背を向けて歩きだした。後ろで何やらアランが喚いているが、気にするだけ無駄だ。

「おい、待て! 恥ずかしいとは思わないのか!? 今からでも遅くない、俺がお前をまっとうな淑女にしてやろう!!」

(これで愛人三十人男との婚約はなし、っと。)

 さっそくゼノンの天災ぶりが発揮されたようで、何よりだ。この調子でどんどん婚約話を潰していこう。

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