天才(災)軍師ゼノンの完璧なる花婿計画
満天星
第1話
美しい花が咲き乱れる店内で、一人の男が跪いていた。
「お、俺と結婚してくれ!!」
そう叫ぶのと同時に、男はそれまで抱えていた大輪のバラの花束を目の前の女性に差し出す。しかしながら勢いよく頭を下げる男の耳に届いたのは、困ったような女性のため息だった。
「ごめんなさい、私、好きな人がいるの。」
「……えっ?」
ぎこちないようすで首をあげると、男の視界いっぱいに赤色が広がった。……そう、あのバラだ。
「だからこれ、返すわね。あ、毎度ありがとうございました。」
にっこりと、たった今振られたばかりの男にむけるにはあまりにも明るい笑顔をうかべて、女性はきれいにお辞儀をした。
-ーここは、彼女が働く花屋だった。
とぼとぼと肩を落として花屋から出てきた男に、事情を察した周囲の人間は距離をとった。遠巻きに、街の人々のささやき声がする。
「見ろよあれ、警備隊のジョンじゃないか?」
「うわ、あいつまた振られたのか。」
周りにクスクス笑われて苛立った男ーージョンは声のしたほうをきつく睨み付けた。
ジョンの鋭い視線に怯えた男たちが静まり返った、その時だった。
「おや、ジョン。こんなところにどうしているんですか?」
艶やかな金髪をゆるく結んだ男が、空気も読まずにジョンに話しかけたのは。
「ゼノン、お前……。」
何か言いたそうに口を開いたジョンに構わず、ゼノンはさあさあとジョンの背中を押した。ーージョンがさっき出てきたばかりの花屋に向かって。
「さては、恥ずかしくなって逃げてきましたね? 大丈夫ですよ、私の言った通りにすれば。何せ、恋愛とは戦なのですから。」
そこでふと立ち止まり、誇らしげに胸を張ってゼノンは告げた。
「天才軍師のこの私にお任せなさい!!」
それまで黙っていたジョンは、ふるふると肩を震わせて叫んだ。……渾身の、憤りをこめて。
「お前の言う通りにしたら振られたんだよ、この天災軍師!!」
「いや-、それほど誉められると照れますね。」
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