第2話

「っていうかさ、何で俺いっつも振られるわけ? 自分で言うのもアレだけど、警備隊って女の子に人気の花形でしょ?」

 広大な領土を誇るノヴァスリア帝国の一地方、ミストリア伯爵領。その領都オゼルの警備隊長でもあるジョンは、カフェのテーブルにガックリとくずおれた。

「ぜーったい、お前の作戦が悪い。何で、花屋の娘さんに花束なんだよ!?」

 恨めしげなまなざしで自分を見上げてくるジョンを見下ろしつつ、ゼノンは首をひねる。

「私の完璧な作戦に間違いなどあるわけないでしょう? あるとすれば情報不足……あっ!」

 何かを思い出したかのように手のひらを叩いたゼノンは、深くうなずいた。

「そう言えば、あなたの容姿を加味するのを忘れていました。」

「お前なんか嫌いだ。」

 頬杖をつき、ハイライトを消した目付きでけっとジョンが吐き捨てる。

 ーーだが、実際にはジョンの容姿が醜いというわけではない。短く刈り上げた栗色の髪に鋭い同色の瞳をもつこの男の顔立ちは、それなりに整っていた。

「あーあー、お前はいいよなあ。その見た目で女の子にもてて。」

 ……ゆるく結んだ金髪、艶やかなすみれ色の瞳の、甘い顔立ちをもつゼノンには劣るというだけで。

「失礼な。私はあなたと違って誰でもいいわけではありません。」

「はいはい、うちの姫さんな。もう耳にタコができるくらい聞いたから、その話。」

 面倒くさそうにヒラヒラと手を振るジョンは、ふと声をひそめた。

「そういや姫さん、縁談がきてるらしいな。 それがどうにも、」

 ジョンのセリフを途中でぶったぎり、ゼノンは勢いよく椅子から立ち上がった。

「何ですって!? それを先に言って下さい!」

「お、おい、話はまだ終わって……」

 走り出すゼノンの背中にジョンは手を伸ばしたが、すぐにやめた。つい先ほどまで自分がゼノンに話そうとした、縁談の候補者たちのうわさを思い出したので。

「……ま、たまには天災軍師も役立つだろ。」


 ミストリア伯爵家では、机の上に並べられた姿絵の前で、一人娘のロゼが深いため息をついていた。送ってきた相手たちを思い出すだけでも頭痛がする。

 それでも開かないわけにもいかず、手始めに一番上の姿絵をロゼは手にとった。くるくると巻かれた金髪が、まず目に飛びこんでくる。次いで、実物よりも大幅に美化された顔を認識する。

「ラティーシャ公爵家の十男? あの、愛人三十人男ね。」

 パーティーなどで見かけた公爵家の十男は、この姿絵と違ってでっぷりと太っていた。鮮やかに描かれている若葉色の瞳も、肉に埋もれて見えなかったほどだ。

「こっちはエフォーガン公爵家の六男……うわさの酒乱ね。」

 二枚目に手を伸ばせば、短い銀髪の男がこちらを睨みつけている。

「……ま、予想通りだわ。」

 ミストリア伯爵家はそれなりに裕福だ。それゆえに、家格のいいところの次男以下から申し込みがあるだろうとは思っていたが。

「さて、とーー」

 姿絵を放り投げ、ロゼはぐっと伸びをした。

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