第4話

「姫様、本当にあれでよかったんですか?」

 颯爽と部屋を後にしたゼノンの背中が見えなくなると、ラウラはおずおずと話しかけてきた。

「ゼノン様には、本当のことをお話ししたほうがよかったんじゃ……。」

 ラウラは、ロゼの気持ちを知っているためひどく同情的だ。だが、だからこそロゼは首を横に降った。

「いいの。むしろゼノンに縁談を壊してほしいなんて言ったら面倒になるだけよ。」

 なぜなら、こと恋愛に関しては天災軍師なのだから。

 候補者たちと破談になるよう頼んでしまえば、間違いなくあのなかの誰かとくっつけられてしまう。

 ならば逆に、候補者たちとうまくいくよう手助けを頼んだほうがいい。

 立ち上がったロゼは、窓から外を見下ろす。浮かべた表情を、見せまいとするように。


「はぁああああ!? 姫さんの婿探し、手伝うことになったぁ!?」

 カフェに戻り、ジョンに報告したゼノンは、喚きちらすジョンの音量に思わず耳をふさぐ。

「うるさいですよ、私を難聴にするつもりですか?」

 肩をすくめて抗議するゼノンに対し、ガタガタと椅子から立ち上がったジョンはこちらを指さした。

「何でお前は落ち着いてるわけ!? そりゃ天災軍師の腕前の見せどころだとは思ったけど、もっとこう、あるだろいろいろ!!」

 大声で喚くジョンに、ゼノンはやれやれと首を横に降った。

「姫の望みなら、私は何を求められても差し出しますよ。……とはいえ、面白くないのでかなり厳しくいきますが。」

「お、おう。最初からそういやいいんだよ。……今回は珍しくまともだな。」

「? 何か言いましたか?」

 何やらモゴモゴつぶやいていたジョンは、ゼノンの問いにあわてて首と手を同時に降った。

「いやいやこっちの話。それより、どうせならお前が姫さんに婿入りしたらどうだ?」

 あたかも名案を思いついたというようにニヤリとジョンは笑う。

「そしたら俺もラウラちゃんと仲良くなれるかもしれないしな?」

 ゼノンがロゼの夫になれば、その友人であるジョンもロゼやラウラと出会う機会が増える。ラウラの愛らしい姿を思い浮かべたジョンは、デレデレと笑みくずれた。

 が、こちらをちらりとも見ないゼノンにあっさりその妄想は切り捨てられた。

「いい加減、自分の顔がどれくらいのものか理解しなさい。」

「相変わらず嫌なやつだなお前。」

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