第21話 茶会の行方④

「はぁあああ!? この俺様をほっぽって帰っただと!? おまけに代わりが男?! あいつら……許さん!! 帰ったら仕置きしてやる!!」

 顔を真っ赤にして喚き散らすアランに、ラウラは深いため息をついた。

「あのー、話聞いてます? だから、あなた帰れないんですって。馬車、ないから。」

 乗って来た馬車がないのに、どうやって帰るのか。やれやれと首を横にふるラウラにかまわず、アランはずかずかとカインのほうへ近づいた。肉厚な手のひらでばんばんとカインの肩を叩く。

「おい、エフォーガン家の。お前、俺様を馬車に乗せろ。光栄だろ? この俺様がお前の馬車に乗ってやるんだから。エフォーガン家なんていう、没落公爵家の馬車にな!」

 しかしながらカインの返答はにべもない。当然だ。

「……断る。それが人に物を頼む態度か?」

 ちなみに、エフォーガン公爵家は五代前に宰相を出した以外、一族に出世した人物がいない。だがそれ以外は特に何かへまをしたということもなく、つつがなく領地を治めているので、没落公爵家というのはあまりふさわしくない表現だ。

「ちっ。ならお前でもいいぞ、ギャリッツ家の。いくら何でも売り飛ばすお前でも、まさか馬車がないなんてことはあるまい?」

 カインに断られたアランはエドワードに向き直るが、ひらひらと手を振られた。

「え~、やだよ冗談じゃない。絶対一緒の馬車とかいたくない。」

「その気持ち、よーくわかります!」

 うんうんと頷くラウラと笑みをかわすエドワード、そして彼らの陰に隠れながらこくこくと頷くロベルトのようすにアランはぷるぷると震えた。

「おい! 貴様ら無礼だぞ!!」

「それに、ラティーシャ公爵子息様には、いろいろとお伺いすることもありますから。」

 襲撃犯とアランに何かしら関係があるのは間違いない。それなのにはいどうぞとお帰りいただくわけにもいかないだろう。

 ロゼの通告にアランはますます表情を歪め、ふんっと鼻を鳴らす。

「冗談じゃない。俺様はラティーシャ公爵の息子だぞ? お前たちごときに指図されるいわれなんかない。」

 帰る、とドアにかけたアランの手をそっとおさえたのはゼノンだ。

「おい、邪魔だ! 早くその手をどけろ!!」

 しかし怒鳴られてもゼノンは気にしたふうもなく笑みを浮かべた。

「おやおや……そんな態度でよろしいのですか?」

「はぁ? 何が??」

 本気で自分の置かれている状況がわからないらしいアランに、ゼノンは丁寧に説明した。

「ラティーシャ公爵家の侍女の手引きで、ラティーシャ公爵家の侍従として犯人が当家に侵入したのです。ここで何の申し開きもなくお帰りになれば、ラティーシャ公爵子息が茶会での襲撃を指導したと見られても、無理はないかと。」

 そう、犯人も手引きした人物もラティーシャ公爵家の関係者ばかりだ。これではアランがミストリア伯爵家に襲撃させたと見られるのもおかしくない。

「そんなわけないだろう!? 第一、俺様は被害者だぞ!?」

 ゼノンの説明に更に怒り狂ったアランは、乱暴にゼノンの手を払いのけ、ドアを開けて出ていった。

「やってられるか! 俺様は帰る!! おい、馬車を出せ!! 婚約者も降りる!! こんなところ、二度と来るか!!」

 どうやら、勝手にミストリア伯爵家の馬車を使うことにしたらしい。どすどすと足音も荒く歩くアランに、優雅に頭を下げたゼノンは彼にだけ聞こえるような声でささやいた。

「……ですが、程なく貴方とは再びお目にかかることになるでしょう。」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る