過去の記憶からの来訪者
「お、おじゃましまーす……」
ここが武器屋か。内装は外観そのままだった。『店』というよりも、『小屋』と言うほうが正しいような。古びた雰囲気がまたそれっぽいというか、昔ながらの風情が残っている、そんな感じだった。
「お、いらっしゃい。和泉さんとこのお嬢さんご一行と……あれ、見ない顔がいるな」
店から出てきたのは少々痩せ気味だが、だからといってひ弱さは感じられない、俺よりも少し年上そうな青年だった。店主だろうか。
「こんにちは、
「ああ、こないだ言ってたヤツだな? 丁度もうすぐ仕上げに取り掛かろうとしていたところだ。そうだ、来てくれたんなら色々確認してもらおう。少し待っててくれ、取りに行ってくる」
「なあ伶、この人がこの店の武器を全部作っているのか?」
「いや、ここの武器は錬金術の使い手と、身体強化魔術の使い手が協力して作っているんだ。大智さんは身体強化の魔術師だよ。それもここら辺では五指に入るレベルの。ちなみに周也が持ってるその剣もここで作られたやつ」
なるほど。それならもしさっきみたいにいきなり何かあっても安心な気がしてきた。何も無いことが一番であることには変わりないが。
「ところで祈莉はどこにいるんだ……」
店を一回り見てみても祈莉らしき人物は見当たらない。ていうか俺ら以外には大智さんしかいない。他には弓矢や槍、剣といった武器が所狭しと置かれているだけだった。
「周也、動き回ったら武器にぶつかって危ないからやめてくれ。お前やらかしても弁償できないだろ」
「うにゃ、ちょっとじっとしててよ、もう。せわしないなぁ。お姉ちゃんの情報が間違ってるわけないから絶対ここにいるよ」
それは分かってるんだが、やはり落ち着かない。一分一秒があまりにも長く感じる。ええい。
「ここにいることだけは確実だから、何も心配しなくていいよ。大丈夫だから。
ああ、ところであたしはこれから私用があるからお先に店から出させてもらうね。見届けられないのは少し残念だけど、良い結果になるといいね」
「あ、ありがとうございました。一颯さんの力が無かったらどうなっていたことか」
「ん、今後とも何でも屋さんをご贔屓に。無事に再会できたら今度は妹ちゃんも一緒に、ね。それじゃ。あ、咲織ちゃん、体には気をつけてあとそれと変な輩に襲われたら一番に言」
「うにゃ、お姉ちゃん、わたしは大丈夫だから早く行かないと」
「……どうしたの、また手汗凄いことになってるよ」
一瞬、一颯さんに物凄い形相で睨まれた気がしたが気のせいだろうか。咲織ちゃんが話をそらしてくれて助かった。さっきとは別の意味で汗が止まらない。悪寒がする。なんなら少し震えてる。
と、そんな話をしているうちに入れ違いで大智さんが戻ってきたようだ。
「遅くなったすまん。これでどうだ? この短剣だったら武器を使い慣れていない初心者でもある程度は使いこなせるだろう。アン、だっけか? ほら持ってみな」
その短剣は特別豪華というわけではないが、様々な意匠が施されており、とても綺麗だった。製作者の熱意がそのまま伝わってくるようだ。
「……あ、ありがとうございます。綺麗ですね、これ。ちゃんと使えるかな」
「ああ、もし不安なら調整してみるから、ここに立って」
「分かりました」
「よし。<奥底に宿りし力よ・秘められた力を解き放て>――これくらいでいいだろう。とりあえず今出来る強化は一通りやっておいたよ」
「……わざわざありがとうございます。どれくらい強くなったんだろ」
「じゃあそこにある要らなくなった木の板、ちょっとやってみなよ」
「……分かりました、えいっ」
アンが短剣を振りかざすと、木の板はいとも簡単に真っ二つに切れた。断面はノコギリを使うよりも綺麗かもしれない。
「わ、凄い。こんなに切れるとは思わなかった」
「これでもし何かがあっても大丈夫だろう。まぁまた必要なことがあったらここに来なよ。そこの君もさ。そういえば君の名前は何ていうんだ?」
「ありがとうございます。えっと、名前は卯野原周也です」
「卯野原? うちの店の従業員と同じみょ」
「祈莉!? それってもしかして祈莉のことですか!?」
つい食い気味になってしまった。いかん、落ち着かないと。
「そ、そうだが。君、祈莉ちゃんのこと知ってるのか?」
「知ってるも何も、祈莉は俺の妹で……今日来たのもここに居るという情報を聞いたからです」
「ああ、そうだったのか。そういえばたまにお兄ちゃんの話してたな。まさか君だったとは。祈莉ちゃんはうちの看板娘だよ。そして錬金術でここの武器のほとんどを作ってる。君の剣もね」
なるほど。さっきの短剣といい、俺が持ってる剣もやたら凝った造りなのはそういうことなのか。あいつ真面目だからな。それよりも、ずっと信じてた魔術が使えてよかったな。自分のことじゃないけど凄く嬉しい。
「ところでその、祈莉は今どこに」
「祈莉ちゃん、今日はそろそろ来ると思うんだが……ここでみんなで待ってなよ。俺も聞きたいことあるしさ」
そう言って大智さんは伶の方を見た。どうしたんだろう。
「いつも気になってるんだけど井月君のその武器、一体何なんだ?」
伶が腰に提げてる拳銃を見つめるその視線はまるで好奇心旺盛な子どものようであった。
「ああ、この武器は拳銃ってやつで俺たちの世界では」
「周也、ストップ。こっち来い」
急に腕をつねられた上に引きずられた。痛いじゃないか。
「ちょ、お前、痛、急に何するんだ! 離せ!」
後ろに連れて来られた。あれ、なんだかデジャヴ。そして伶は小声で俺に耳打ちした。
「忘れていたが一応言っとく。お前が異世界出身なことを知っているのは僕とお嬢様と主人様、咲織さんと先生くらいだ。完全に隠してる訳じゃないが広まるとそれなりにマズい」
そうだった。忘れてた。こういうのってアニメとかだとバレたらバッドエンドだよな。今度からちゃんと気をつけよう。
「おーい二人とも、急にどうしたんだ?」
「ああいえ、何でもありません。周也が変なことを言いふらそうとしていたので少し」
おい! 確かに間違ってはないが言い方ってもんがあるだろ。俺の視線を感じ取ったのか、伶は(だってそうじゃないか)といった表情で返してきた。ぐぬぬ。
「にしてもそれ一体どこで仕入れてきたんだ? 俺ですら見たこと無いような武器だけど。ああ、もしかして井月君の時空転送魔術で取り寄せてきたのか?」
「いや、普通に親戚から譲り受けたものですが」
「本当か? その『ケンジュウ』? ってやつ、今度ちゃんと見せてよ、気になるからさ」
「ええ。……機会があればまたいつか」
そのときだった。
――ガタ、ガチャン。
いきなり、かなり大きな音とともにドアが開けられた。祈莉が来たのだろうか。いやでもそんなに荒々しい性格ではないような。
そこに立っていたのは、二人組の男女だった。女の方は頬のそばかすが目立つ、いわゆる町娘みたいな顔立ちだった。
一つにまとめられ、首の辺りで結ばれた少しウェーブがかった長い髪は赤いものの、雅美とはまた違う系統に感じられた。それがより一層顔立ちがハッキリしている彼女を更に派手に見せている。
対して男の方は髪はぼさぼさであり、目までかかりそうだった。辛うじて見えた目にはまるで生気が宿っていない。顔も冴えないようで派手な人と一緒に立つとその地味さがより引き立つように思えた。
髪の色も深い紺色であり、まるで夜の闇、または深海のようだ。
「お前ら、うちのドアはボロいからゆっくり開けてくれよな。んで、この辺では見かけない顔だが何か用か?」
「……ああ、えっと。違う、僕たちは別に客って訳じゃない」
「おいおい、冷やかしは勘弁してくれよな」
「ええ、私たちはちょっとした用事で来ましたの」
そう言うと、二人組は俺らがいる方に近づいてきた。――正確に言うならば、アンがいる方だが。そして彼女の手をとって、こう言った。
「……ああ、『ノワ』、やっと見つけた」
「やっぱりね。言った通りじゃない。『ノワール』はこの辺にいるって」
ノワ? ノワール? ああ、もしかしたらアンの本名なのだろうか。ノワールって確かどっかの国の言葉で黒って意味だよな? 見た目が真っ白なアンになんでそんな名前を付けたのか彼女の両親に聞いてみたいが。
いや、今はそんなことどうでもいい。きっとこの人たちは記憶を失う前のアンの知り合いなのだろう。良かった。アンのことを知っている人がいて。この二人がアンの記憶を取り戻す手がかりの一つになるに違いない。
「……えっと?」
「ああ、そこのお二人、彼女は記憶を失ってまして」
「それくらい知ってるわ。さ、行きましょ。みんな待ってるからね」
「……早く帰ろう。さ、こっち」
「うにゃ、寂しくなるけど良かったね」
「ええ、短い間でしたが一緒に居られて楽しかったですよ」
記憶を取り戻したら俺たちのことは忘れてしまうんだろうか。でも本人が幸せならそれでいいか。少し寂しい気もするが。まぁアンも一安心だろう。これにて一件落着だ。
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