計画書:もうひとつの祈り
これは、祈莉が何者かに捕らえられてから少しだけ月日が経った頃の話。
相も変わらず私は、『アリア』さんに指導されながら手当たり次第に
「はぁ。最初に比べれば全然マシになってきたかと思いますが、まだまだ完全とは言い切れませんね」
『アリア』さんは、私が作った
こうなったらもういっそのこと、思い切って質問してみた方がいいのだろうか。
「あの、すみません、『アリア』さん」
「はい、どうしたのですか」
ひえっ。別に怒っている訳では無いんだろうけど、どうしても表情が怖くってつい怯みそうになってしまう。でもここで聞いておかないとこのまま一生終わらない気がする。……よし。
「えっと、どうすれば完璧な人型の
「はぁ、そんなことですか」
私がなんとか言い終わったのと同時に、『アリア』さんはさっきよりも深くため息をはきながら呟いた。どうしよう、やっぱり聞くんじゃなかった――
「簡単ですよ。魔術を使っている自分を、そして魔術を脳内でイメージするんです。そうすれば自ずと答えは見えてくるはずです」
だけど予想とは裏腹に、『アリア』さんは優しい口調で教えてくれた。確かに、今までの自分は要求に応えようとすることに精一杯でそこまで気が回らなかった。この人、こんな一面もあったんだ。怖いだけの人だと思ってた。
「何か言われましたか?」
「……いいえ、別に。えっと、じゃあ。<大地の恵みよ・そこに眠る凶悪さと共に・その力をもって体をなせ!>」
今までとは詠唱は何も変えていないけど、今回は言われたとおりに土人形を作り出している自分をしっかりとイメージしてみた。そう、何年も前に絵本で読んだ魔人ような、そんな感じの強くて大きな土人形を。
その瞬間。そばに置いていた土の塊が生きているかのように動き出した。ここまではいつも通りだった。そこから徐々にはっきりと生物のような形に変わっていく。それはまるでさっき思い浮かべていた魔人そのものだった。すごい、今まで作った物の中では一番良い出来かもしれない。
「そんな、少し簡単なアドバイスしただけでこれだけ上達するなんて。これが
良かった、これでとりあえずここから解放される。長かった。
――そういえば、オートマタってよく耳にするけど結局なんなんだろう。
*
それから私は、『アリア』さんからもし外に出る際はこれを着けなさい、となにやら不気味な仮面のようなものを渡された。見た目はとんでもなく悪趣味だった。アニメでもここまでのモノは見たことが無い。誰の趣味なんだろう。……こんなの着けたくない、って言ったらまた怒られるだろうからしぶしぶ頷いたけど。
――だが、何度か仮面を着けてみたのだけど、その間の記憶があまり無い。ていうかほとんど無い。着けてみなさいと命令されて、次に気がついたら自分の部屋のベッドの上で寝ていたとかしょっちゅうだった。
せっかく外に出られるようになったのに、これではまるで意味が無いじゃないか。あれから特に仕事を言い渡されることも無く、起きてる間はマリーの世話をするくらいしかやることが無かった。なんて退屈なんだろうか。
「隣、失礼するわね。……どう? そろそろここでの生活も慣れたかしら」
いつものように食堂でご飯を食べていたら、『ルゥ』さんから話しかけられた。彼女とはたまに会う程度の仲だけれど、最初に比べたらかなり距離感は近くなっていた。今では唯一の話し相手になっている。
「いいえ、全く。あれから何もすることが無くて退屈で仕方なくて。正直、早くここから出て行きたいです。どうして皆さん、あんなに頑張れているんですか」
「あれ? 聞かされてない? 私達が機械人間として任務を遂行する代わりに、一つだけなんでも願いを叶えてもらえるって『リンネ』様から言われてるの。私の後輩の『アズ』って子はもうあの方のことを『神様』だなんて言って慕ってるわ」
「待ってください、『リンネ』様ってもしかして『アリア』さんといつも一緒にいる……」
「そうそう、聞かされてなかったかしら?」
あの人そんな名前だったんだ。そういえば知らなかった。――それにしても願い事、か。私なら今までいじめてきた人たち全員に何かしらの天罰を下す、とかにしようか。特にあのとき、マリーをいじめた奴らは絶対に許せない。最も、もう名前すらちゃんと思い出せないけど。いやでもせっかくの願い事をそんな奴らのためには使いたくはない。どうせなら自分たちのためになるものを……なんて妄想が膨らむ。
「あの、ところで『ルゥ』さんの願いは一体?」
「そうね、私は……ある日突然いなくなった師匠を見つけ出すこと。ただそれだけよ」
そう呟く『ルゥ』さんの顔は至って真剣で、でもどこか寂しそうで。絶対に叶えたいっていう意思がひしひしと伝わった。
「……と、もうすぐ次の任務の時間だわ。話に付き合ってくれてありがとう。また機会があればこうやってお話しましょう」
『ルゥ』さんは私よりも遅くに食べ始めたはずなのに、気づけばお皿の中が空っぽになっていた。まだ私は半分くらい残っているのに。本当に仕事が第一なんだろうな。
私も食事を済ませたので、部屋に帰ろうと廊下を歩いていたら曲がり道のところで真正面から誰かとぶつかった。幸い、特に走っていたわけでもなかったのでお互いに怪我はしていないけど。
「きゃっ! すみませ」
「……あ、ごめんな、さい」
相手の顔をよく見てみたら、前に機械とか管とかに繋がれていた例の銀髪の少女だった。生身の姿を見るのは初めてだ。最も、あの一回しか見たことないけど。
「いえ、大丈夫ですか?」
「……」
彼女は私の問いかけを無視して、向こうへと歩いて行ってしまった。明らかに様子がおかしかったが大丈夫だろうか。
そうだ。さっきので思い出したけど、あの奥の部屋今どうなってるんだろう。なんだか無性に気になってきた。少し覗いてから帰ろうか。
中にはまた、『アリア』さんとそれから『リンネ』様がいた。二人は機械の前でなにやら色々な操作をしていた。こちらに気づく様子は一切無い。
そしてその機械の中には――この間、私が作った土人形がいた。あれ、なんで、どうしてこんな所に。確かにあの後、『アリア』さんに回収されたけどなんのために
「……では……を」
「分かりました。……」
次の瞬間、機械の中にあった土人形が小刻みに動き出した。錬金術を使ったときとはまた違う、まるで細胞が分裂しているかのようだった。
分裂してはくっつき、分裂してはくっつきを何度も繰り返して徐々に人間そのもののような形に変化していく。そして出来上がった物を見て私は頭が真っ白になった。
――あそこにいるのは……紛れも無く『私』そのものだった。
あまりの恐怖と得体の知れない気味悪さのせいで、私はその場に座り込んでしまった。呼吸が速く、荒くなる。まずい、音を出したら駄目なのに、バレてしまうのに、体が言うことを聞いてくれない。とりあえず逃げなきゃ。
私はおぼつかない足どりのまま、なんとか部屋に戻ってくることが出来た。ドアを閉めても、マリーを抱きしめても心臓は落ち着かない。見てはいけないモノを見てしまった、こんなこと『ルゥ』さんにも相談出来ない。
……そうだ、あれはきっと何かの間違いだったんだ。そうだ、そんなことあるはずない。ただの、ただの見間違いだ。そうやってただひたすら自分に無理矢理にでも言い聞かせた。
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