第49話 炊事遠足

 月人達は現地の森に着くとみんなで持ち寄った材料を鞄から出すがその時に月人は美咲の異変に気付く。見ると美咲はみんなが材料を出す中、一人だけ月人のことを赤い顔でジッと見ているのだ。


「何やってんだお前?」

「ふえっ!? あっ、ああいや、別になんでも、えっと材料ね、材料……」


 月人の班は吸血人狼(ヴァンパイアウルフ)の夜王月人と兵士(ソルジャー)希望の立花美咲、二口女の差江島結衣(ゆい)と化物(ゆい)の恋人の浅野真二の四人というなんともカオス的な面々である。


 美咲は今まで自分がみんなと違うことを気にしていたがここではむしろ自分が一番まともに見えてくる。だが美咲がぼうっとしていた理由はそれとは別にある。


 調理が始まると調理は女子をメインにしようということで月人と真二は美咲と結衣が材料を切っている間に火力の調整を、味付けをしている間に使い終わった調理器具を洗うことになった。


「じゃあ俺ら器具洗ってくるから」

「あっ、うん、いってらっしゃい」


 使い終わった料理器具を持って洗い場に向かおうとする月人だが、やはり美咲の様子が気になり道具をその場に置くと美咲に近づく。


「どうしたんだお前? さっきから顔赤くして、風邪でもひいたか?」


 そう言って月人はいきなり美咲と自分の額を当てた。


「ふえっ!?」


 月人のまつげと鼻の先が触れそうになる、美咲の心臓が跳ね上がり顔はより赤みを増していく。

視界がぼやける、だが美咲が気絶寸前のところで月人は額を離す。


「やっぱ熱っぽいぞ、大丈夫か?」

「……」

「おーーい、聞いてるかーー?」


 月人が美咲の目の前で手を振って意識の確認をすると美咲は我に返り慌ててまくしたてる。


「だだだ、大丈夫だよ、それにほら、あたしがぼーっとしてるのはいつものことだし、熱っぽいのは今日暑いからだよ、それよりも夜王くん半分吸血鬼(ヴァンパイ)なんだから日差しに気をつけたほうがいいよ、じゃあ洗い物よろしくね」


 それだけ言うと美咲は急いで調理作業を進め、月人も辛くなったら自分に言うよう言って真二を引き連れ洗い場へ向かった。


 月人の姿が見えなくなると美咲はほっと胸を撫で下ろした。


 その様子に結衣は小さく笑い問い掛ける。


「ねえ、美咲ちゃん、いつ夜王(やおう)君に告白するの?」

「!?」


 その言葉に美咲の肩がビクッと跳ね上がる。


「なな、何言ってるの!? あたしは別にそんな月人君のことが好きとかそんなんじゃ……」


 美月は必死に否定するが鍋をかき混ぜるオタマの動きは乱れ、動揺している事を浮き彫りにする。


「だっていつも仲良さそうに話しているし放課後はいつも一緒にいるじゃない」


 美咲のつかむオタマはさらに乱れ材料をぐちゃぐちゃにかき混ぜながらシチューがこぼれそうになる。


 確かにいつも放課後は一緒だがそれは美咲がソルジャーになるための修行をつけてもらっているだけで月人に恋愛感情はないはずだ。


 しかし、「じゃあ自分は?」と心の中で自問するとはっきりと否定できないが他人から改めて言われるといつも以上に深く考えてしまう。


「いや、好きとか嫌いとかはその、うう、でも和人くんわりとカッコいいほうだよね、背も高いし、体も結構筋肉質で締まってるし……強いし……勉強できるし……教え方うまいし……さっきもあたしのこと気遣ってくれて……」


 そこまで言って美咲の手が止まる。

 今のはいくらなんでもまずかった。

 考えれば考えるほど月人の魅力を発見してしまう、これ以上追及してはダメだと判断し美咲が叫ぶ。


「でもほらあたし人間だし……」

「私もモンスターだけど人間の真二君と付き合ってるよ、それとも美咲ちゃんは私達の交際は反対なの?」

「いや、でもあたしソルジャー志望だし、ソルジャーとモンスターじゃねえ……」


「モンスターを殺すのはキラーでソルジャーが殺すのは悪質なモンスターや闇の眷族(ダーカー)だけでしょ?」


「……うぅ……」


 美咲は反論の言葉が見つからず沈黙してしまう。

 同じ頃、月人も似たような状況に立たされる。

 調理器具を洗っていると隣の蛇口を使っていた真二に美咲の事を聞かれていたのだ。


「じゃあ夜王君は立花さんのことが好きなわけじゃないんだ」


「ああ、あいつが戦い方を教えてくれって言うから放課後に修行つけてやってるだけだ、頼まれればお前にだって教えるぞ、それに、前話したけど俺は災厄種だからな、今は俺が破滅の元じゃないって協会の連中に見せてやるので手一杯だ。今はまだそういうのは興味ねえよ」


 真二はそれは残念だと言って視線を調理器具に戻した。

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