第7話 救出

 食事とその片づけが終わると生徒達は集合時間まで森の中や川べりを歩いたりして自然を楽しむ、美月は和人と一緒にいては間が持たないので一人で森の中を散歩している。すると目の前に一匹のキツネが見えた。


 犬や猫なら街なかでよく見るし夜になれば幽霊や怪物(モンスター)も見かけるがキツネはまだテレビでしか見たことがないため、美月は好奇心からそのキツネに近づき触ろうとするが逆にキツネのほうが美月に飛び掛かり彼女の首から下げている三日月形のペンダントを口にくわえて走り去ってしまった。


「まっ、待って! それは和人君がくれた大切な物なの……」


 美月は必死に追いかけるが道からはずれ、木々が密集している狭い場所では小柄なキツネのほうが走りやすく、いくら美月が吸血鬼(ヴァンパイア)でもなかなか追いつけない、やっとの思いでペンダントを取り返したがその時にはもう自分がどこにいるのかもわからないほど森の奥深くまで来ており、彼女がそれに気付くのはしばらくの間、森をさまよってからだ。




 それと同じ頃、和人は集合時間が近づいているのに美月の姿が見当たらないことに気付く、周りの生徒に聞いても知らないという返事しか返ってこない、和人は妙な胸騒ぎを覚えて走り出す。


 和人が美月の匂いを頼りに走り始めてから一〇分、目の前には朽(く)ちかけた釣り橋が姿を表す。


 およそ人が通れるとは思えないほど古く、美月はこんなところを通ったのかと内心、呆れ返っていると吊橋の向こうに生い茂る背の高い茂みから美月が姿を現した。


「あれ? 和人君、なんでここに?」

「なんでって、お前が戻るの遅いから探しに来たんだよ、もう時間がないから早くこい」


 さっきも同じこと言われたなと思いながら和人が手招きをすると美月は頷き今にも崩れそうな吊橋を渡り始める。


 朽ちかけた吊橋は美月が一歩歩くごとに頼りなく揺れ、ロープは切れる寸前、はめ板は腐り美月が踏んだ通りにへこみ、歪む、なぜ美月はこんなところを通ったのかと和人は頭を悩め、漫画だったらちょうど真ん中で崩れているなと考える。


 さすがにそんなベタな展開は起こらず美月は無事に吊橋を渡りきるが危なげながら渡りきって安心したのか、和人に歩み寄ろうとした瞬間に茂みから飛び出したキツネに驚き後ろへ仰け反りそのまま足を滑らせ、美月は悲鳴を上げて崖に落ちていく、この高さでは吸血鬼(ヴァンパイア)でも打ち所が悪ければ死んでしまうだろう、和人は自分の体がなにかとロープで繋がっているわけでもないのに何も考えずただ美月を助けたくて彼女の名を叫びながら崖に飛び込んだ。


「美月ぃいいい!」


 和人はなんとか空中で美月を掴むとそのまま離れないようにしっかりと抱きしめる。だがこのままでは二人とも地面に激突してしまう。


「美月、羽出せ、羽!」

「羽!? でもわたしまだ飛べな……」

「崖の岩肌に手がとどけばそれでいいんだ! 早く!」


 和人がそう叫び美月が頷くと背中からコウモリと同じような形状の巨大な翼が生え必死にはばたく。


 二人の体が徐々に岩肌に近づく、そしてある程度近づくと和人は右腕を崖の岩肌に突き刺した。


 和人は絶叫しながら落下を止めようと必死に踏ん張り右腕はガリガリと音を立てながら岩を削っていく。


 右腕を壁に突き刺して一〇秒後、さんざん岩を削ってやっと二人の落下は止まった。和人の右手は岩との摩擦で皮膚がズルズルに裂け剥がれ、血が流れるがそこは人狼(ウェアウルフ)の常識はずれの再生力が発動し、すぐに血は止まり、皮膜が完成する。あと何秒もしないうちに傷は完治するだろう。


「よし、じゃあ美月、俺の背中に……って、お前に何やってんだ?」


 見ると美月は必死に体育用のTシャツの前を押さえている。和人の問いに美月は恥ずかしそうに応える。


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ニワトリが飛べないのは才能でも努力でもなく環境のせいだ! 無能な少年と師匠の出会いが、一人の英雄を誕生させる──。

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