第6話 暗いのが怖い吸血鬼ちゃん
「だからってなぁおまえ……」
和人は呆れつつもやはりそんな美月をカワイイと思ってしまい、顔の赤みが増し、それを気取られないように話題を振る。
「そっ、そういえばお前、ちゃんと日焼け止めクリーム塗ってきたのか? いくら人間みたいに暮らしていたって体は吸血鬼(ヴァンパイア)なんだ、ここは暗いけど、さっきの場所みたいに日の強い所にいたらまずいだろ……」
「それは大丈夫、家を出る前にたっぷり塗ってきたから」
吸血鬼(ヴァンパイア)が日の光りに当たると灰になるというのは昔の人間の誇張表現で実際には紫外線に弱いもののよほど長時間の間、日に当たっていないかぎりは問題ない。
それと同じようにニンニクは舌に合わないだけ、聖水や十字架にいたっては吸血鬼を勝手に悪魔の使いと決め付けた教会の人間達が創作したもので実際の吸血鬼に弱点は存在しない。
人狼(ウェアウルフ)の常識も似ていて丸い物や月を見ると、または見ないと変身出来ないというのは昼は人目につくので夜しか狼に変身しないのを夜しか変身できないのだと昔の人間が勘違いしただけだ。
あえて言うなら二人とも銀の弾丸には弱いが、銀の弾丸はモンスター全般に強いのであって吸血鬼(ヴァンパイア)や人狼(ウェアウルフ)特有の弱点ではない。
「あと暗いから駄目っていうよりも一人が嫌なの、それで周りが暗いと二重で不安になっちゃって……」
「じゃあ暗くても誰かと一緒なら不安じゃないのか?」
美月がコクンと頷くと和人はじゃあ自分がドアの前で待っているからさっさとしてこいと言う。
美月はお礼を言ってトイレの中に入る、もちろん中に虫がいないか確認してからの行動だ。
だが美月がトイレのドアを閉めた時点で二人は同時に今の現状に気付く。
ドアの向こうで美月が用を足している。
用を足している自分のドア一枚隔てた場所に和人がいる。
「!!~~!??」
「~~~!~!?」
二人は同時に時間よ巻き戻れと願うが時間が巻き戻るわけもなく、二人は顔や耳どころか首筋まで赤く染め上げ羞恥心で骨が溶けそうになる。
和人は美月が早くトイレを済ますよう願い、美月は早く終わらせようと慌てる。
美月は用を済ませるとパンツと体育用の短パンを上げ、早く出ようとするが顔を上げると視界に一匹の蛾(が)が飛び込んでくる。
その瞬間、トイレの中から美月の悲鳴が聞こえ和人が叫ぶ。
「み、美月!? どうした!? なんかあったか!?」
バンバンと叩くとドアが勢いよく開いて美月が飛び出す。
和人はとっさに後ろへ下がるがそのまま二人は衝突し、和人は美月に押され仰向けに倒れる。
首を起こすと自分に必死に抱きつく美月の姿が見える。
吸血の時のようなそっとした抱きつき方ではない、しがみ付くようにして力いっぱい抱きついてくるため今までとは比較にならないほど強く美月の感触を感じてしまううえに怯える美月の顔がすぐ目の前にあって和人の脳はすでに羞恥の許容量をはるかに超え粉々に砕かれてしまい、理性などトンネル用巨大削岩機の作業よりも早く削り取られる。思春期のこの時期に好きな女の子にしがみ付かれるなど体にも心にも悪すぎる。
和人は常識外れの欲求を超人的な集中力と精神力で押さえつつ何度も美月の名前を呼ぶ。
「えっ?」という少し驚いた声と同時に美月は冷静さを取り戻すがその冷静な頭で現状を把握すると今度はさっきとはまた違った悲鳴を上げて和人から勢いよく離れる。
二人の間にまた微妙な空気が流れるがなんとか和人が早くみんなの所へ帰ろうと言ってその場はなんとか誤魔化せた。
美月も羞恥で顔を赤くしたまま頷き、トボトボと歩きながら和人のあとを追った。
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