第5話 人狼くんは思春期です

 同じ頃、和人も似たような状況に立たされる。


 調理器具を洗っていると隣の蛇口を使っていた女好きの友人、差(さ)江島(えじま)光一(こういち)に美月の事を聞かれていたのだ。


「おいおい、友達として好きなのか女として好きなのかはっきりさせねーと他の奴に夜主(よるぬし)とられちまうぞ、あいつ男子の中じゃ人気あるからなぁ……」

「そっ・・・・そうなのか!!?」


 和人は動揺し、光一に詰め寄る。


「そりゃ、あいつ結構カワイイしスタイルいいし、おまけに優しくて気が利くとくりゃ当然の結果だろ?」


 その後も光一は和人に延々と美月の魅力を語るがどれも和人自信が美月に惹かれていた部分を的確に当てているのでますます動揺してしまう、美月の良さは他のどの男子よりも知っているつもりだしそんなの今更光一に言われなくてもわかりきっている。しかし他人に言われると今まで美月に対して思わずドキッとしてしまった時のことが思い出され頭の中がぐちゃぐちゃにかき乱される。


 彼女自身は自覚がないが、美月は成長するにつれてどんどん可愛くなり、彼女が動く度になびくロングヘアーはクラスの男子達を魅了している。


 だというのに光一はさらに追い討ちをかける。


「お前がコクらないなら俺がもらっちゃおうかなあ」


 ガチャンと音をたてて和人が調理器具を落とし光一を見る。その様子を光一は笑いながら眺めた。


「なんだよ、やっぱり好きなんじゃねえか、安心しろって俺は夜主レベルの女の子も何人かキープしてっから、わざわざお前を敵にまわしてまで夜主を手に入れようなんて思わねえよ」


 その言葉に和人は安心し、大きな息を漏らすと、光一はそのようすをいじわるく笑いながらおもしろがっていた。



   ◆



「ったく、光一のやろう、人のことからかいやがって……」


 トイレの帰りに和人はぶつくさと一人で文句を言いながら歩いていると前の方から見覚えのある人影が歩いてくる。


「美月?」

「あれ、和人君なんでこんなところにいるの?」

「なんでって、トイレ行ってたんだよ……」

「そうなの? じゃあトイレまで案内してくれない? あたしどこにあるのかよくわからなくて」


 和人はそれを了承すると来た道を引き返しはじめる。荒れた道をしばらく歩くとまったく人の気配が感じられない、木々に囲まれた暗い空間が現れ、その中心に木造の小屋がぽつんと建っている。


 中は汲み取り式の和式便器、電気はなく、近くの地面から無造作に蛇口が生えているのでそれで手を洗うのだろうがとにかく全てがボロい。


「か、和人君、こんなところでトイレしたの?」

「そうだけどなんか問題あるか?」


 美月はもじもじしながら言葉をつむぎ始める。


「だって、こういうところって、虫とか……」

「虫? お前虫が恐いのか?」


 その言葉に美月は驚いたような声を上げる。

「いや、恐いとかじゃなくて、トイレしている最中に足とかにとまってきたら気持ち悪いし……それにあそこ暗いし……」


 和人は頬をかきながら。


「えーっと、なんだ、もしかしてお前お化けとか駄目なのか?」


 美月は力いっぱい手を振り否定する。


「ちっ、違うよ! あたし吸血鬼(ヴァンパイア)だよ、幽霊なんて普通に見慣れてるし今年の霊力測定で一万二千も叩きだしたんだから! それに中級の悪霊ぐらいなら今までに何度も倒しているし……」


 じゃあなにが駄目なんだと和人が尋ねると美月は恥ずかしそうに返事をする。


「恐いんじゃなくて、その、なんか、不安になるの……」


 暗いと不安になる、その言葉に和人は自身の内側から溢れ出す衝動に我慢できなくなる。


「アホ! お前! 吸血鬼なのに暗いの駄目ってどういうことだっ!?」


 和人が怒鳴ると美月は申し訳なそうに。


「だって生まれた時から人間の国で暮らしてるんだもん、やっぱり基本的にあたし昼型になっちゃうし……」

「だからってなぁおまえ……」


 和人は呆れつつもやはりそんな美月をカワイイと思ってしまい、顔の赤みが増し、それを気取られないように話題を振る。

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