第4話 人狼と吸血鬼は思春期です

 二〇四一年、和人と美月が吸血関係になってから七年目、二人は高校一年生になった。


 そんな二人に訪れた障害、それは羞恥心(しゅうちしん)だった。


 子供の頃は気にならなかったが美月が和人を吸血するにはまず美月が和人に抱きつき首に手を回し、首に噛み付かなくてはならない、十六歳になった二人がそれの意味を知らないわけはないし何も感じないはずが無い。


 中学生の時に和人の背はかなり伸び、最初は楽に噛み付けた首は美月が背伸びをしないととどかない位置にいってしまい、美月は吸血のたびその身長差を思い知らされる。


 人狼の特徴である筋肉質の締まった体も抱きつくたびに全身で感じ、子供の頃から変わらない精悍(せいかん)な顔は首に顔を近づける時に自然と自分のすぐ側まで来てしまう。


 和人にしてみても同じ年頃の女の子が毎日自分に抱きつき首を噛んでくるのだ。

美月を意識しないわけがない。


 そう、二人がお互いを意識しないわけがなかった。


 学校の昼休み、二人はいつもどおり誰もいない学校の裏に吸血をしにきている。人狼と吸血鬼の人並みはずれた嗅覚で辺りに人がいないことを確認すると美月は赤面し、恥ずかしそうにうつむきながら和人に「じゃあ噛むね」と言い、和人も赤い顔のまま「ああ」というふうに応える。


 美月は和人に抱きつき首もとに牙を突き立てる。


 自分よりも大きく、たくましい和人の体に美月は興奮しさらに顔が赤くなる、和人は自分に抱きつく美月の胸や首に感じる唇と舌の感触に理性をガリガリと削り取られ脳が焼けそうになる。


 しかし吸血関係を止める理由を言えるわけも無く、どんなに恥ずかしくてもやはり和人の極上の血は飲みたいので二人はズルズルと今の関係を続けるしかなかった。


 吸血が終わり、美月が和人から離れると二人は顔を赤く染め上げたまま何も言わず、一分以上経ってからようやく美月がそろそろ戻ろうと言い、ようやく二人はその場を離れた。


 こんなことがもう一ヶ月以上も続いている、いい加減、二人とも限界に達していたがもしも告白して断わられたらと考えるのは当然として人狼(ウェアウルフ)と吸血鬼(ヴァンパイア)という種族の違いという事実が邪魔してなかなか先へ進めない。そんな気持ちのまま時は流れ、炊事遠足が始まった。



 多日高校の生徒達は現地の森に着くとみんなで持ち寄った材料を調理し始める、和人と美月は同じ班、そのため準備の時にはほとんど口もきかずにただ顔を赤く染めたまま黙々と作業を進め、岩でカマドを作り、火を起こすと和人たちの班も調理を始めた。


 調理が始まって一時間後、もう使わない道具の洗浄を女子に頼まれ和人はいくつかの調理器具を持って蛇口のある場所まで移動するがそのすぐあと、美月の友人である町田(まちだ)美紀(みき)が材料を切る手を止め、切り終えた材料を煮込んでいる美月に声をかける。


「ねえねえ美月、いつ夜王(やおう)君にコクるの?」

「!?」


 その言葉に美月の肩がビクッと跳ね上がる。


「ななっ、何言ってるの!? あたしは別にそんな和人君のことが好きとかそんなんじゃ……」


 美月は必死に否定するが鍋をかき混ぜるオタマの動きは乱れ、動揺している事を浮き彫りにする。


「だっていつも仲良さそうに話しているし昼休みになったら二人してどこかに消えてるじゃん、だいいち、好きでもない人にお弁当なんて作らないよ普通」


 美月のつかむオタマはさらに乱れ材料をぐちゃぐちゃにかき混ぜながらシチューがこぼれそうになる。


 いつも血を飲ませてもらっているお礼という名目で和人に作っているお弁当、確かにその中に和人への恋心が入っていないと言えば嘘になるが他人から改めて言われて自分がとんでもないことをしていることに気がつきただでさえ乱れていた精神をさらに揺り動かされる。

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