第13話 おかしな師弟関係
次の日の放課後、美咲はまた月人に襲いかかり、月人が人に危害を加えていない自分を殺すのは違法だと言うが美咲は例えそうでも一撃も与えられずに引き下がるのはプライドに関わると言って襲ってくる。
それからというもの、放課後は毎日美咲に襲われるがそのたびに戦い方を教えるという奇妙な関係が続き、もう五月に入るという頃。
「霊力を込める平均タイム〇,一秒、これなら急に襲われても対処できだろう、もう霊力コントロールは問題ないし、あとは単純に剣技(けんぎ)を上達させるだけだな、今のお前じゃただ剣を振り回しているだけだ、だれか剣術を教えてくれるやつは?」
月人の問いに美咲は右の人差し指をアゴにつけて考え込む。
「うーん、お父さんは教えてくれないだろうし、まだ他のソルジャーの知り合いもいないし……」
「やれやれ、じゃあ明日からは剣術教えないとな……」
「そうだね、って夜王くん剣術なんて使えるの!?」
興奮し顔を近づけてくる美咲を手で押しのけると月人は説明する。
「剣は父さんの得意武器だからな、五歳の時からやってるよ」
「すごい! 霊術だけじゃなくて剣術も使えるなんて、夜王くんすごすぎるよ――!」
美咲は子供のようにぴょんぴょんと飛び跳ねてはしゃぎ、月人はその姿を呆れて見る。
「そういえば夜王くんいつになったら人を襲うの?」
その言葉に月人は一瞬硬直し、顔をこわばらせる。
「ちょっと待て、それ、どういう意味だ?」
「だって夜王くんが誰かを襲ってくれないとあたしが夜王くんを倒してもあたしソルジャーになれないじゃない、だから早く誰か襲って、そしたらあたしが夜王くんを倒して捕まえて協会に引き渡すから」
この娘は笑顔でなんてことを言うんだと月人が見ていると美咲は続けて言う。
「あたしの夢はソルジャーになってこの世の危険なモンスターをみーんな倒すこと、だからいつか、夜王くんも倒してみせるんだから」
まるで子供が自分の夢を親に言うかのように美咲は言うがそれで月人は再認識する、今はまだ実力不足だが美咲の目的は自分達(モンスター)を倒すことであると、月人は美咲に「はいそうですか」と応えると家に帰った。
◆
月人は家に着くと鞄を投げ捨て居間のソファに寝転がり大きなため息を着く、すると美月が心配そうに月人の顔を覗き込んでくる。
「どうしたの月人? 学校でなにかあった?」
視線を動かし母の姿を確認すると月人は口を開く。
「母さん、学校じゃ何も、ただ、あのソルジャーになりたがってる女子なあ……」
「なんだ月人、お前まだその子に狙われてるのか?」
月人が横を見るといつのまにか帰ってきていた父の和人がこちらを見ている。
「危険度Cは人間に危害を加えたり物を壊さない限りは手を出せないって言ったのか?」
「言ったよ、だけど一撃も与えられずに引き下がったらプライドに関わるとかモンスターはみんな倒すとか、あいつもしかして、ソルジャーとキラーの区別ついてないんじゃ……」
「親がソルジャーなんだろ? だったらそれはねえだろ」
「でもあいつ、親から何も教わってないみたいなんだよな、危険度Cの意味ももしかいてよくわからないで返事してるのかも……」
月人は少しの間ソファに突っ伏すと顔を上げて和人を見る。
「そういえば、俺がソルジャーになる手続きってもう済んだの?」
「ああ、明日、証明書が届けばその瞬間からお前はソルジャーとしての活動が認められる」
「わかった」
月人は起き上がると自分の部屋に向かい、着替えるとそのまま玄関に向かって歩く。
「あれ、どっかいくの?」
居間でソファに座り、テレビを見ていた姉の夜風が携帯電話片手にしてきた問いに月人は面倒臭そうに応える。
「俺も明日からソルジャーだからな、町の下見だよ、し、た、み」
「……」
それを聞くと夜風は携帯を置き、視線を落とし心配そうな声を出す。
「ねえ月人、やっぱり、お姉ちゃんは月人がソルジャーになるのは……ソルジャー協会に入りたいんだったら情報操作部(アサシン)や研究者(アルケミスト)でもいいじゃない、何も危険な兵士(ソルジャー)になる必要は……」
月人は立ち止まり、少しの間、何かを考えていたが夜風に背を向けたまま言う。
「ごめん、でも俺は自分の手で全てを守りたいんだ」
それだけ言って月人は家を出て行き、夜風は自分の腕に顔をうずめ、涙を流しながら月人の名を呟いた。
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